広義積分とは何かと簡明に問われたならば,どのように答えたらよいのでしょうか.コーシーは有界閉区間上の連続関数の定積分を考察しましたが,リーマンはなお一歩を進め,有界閉区間上の有界な関数の定積分を考察しました.有界閉区間上で考えるところは共通していますが,この場合,連続関数はつねに積分可能であるのに対し,有界関数は必ずしも連続ではありませんし,つねに積分可能とも言えませんので,リーマンがコーシーよりもさらに一般的な地点に進んだのは間違いありません.広く有界関数を相手にする場合には,可積分条件の探究という,新たな課題が課せられてきます.
コーシーからリーマンへと足場を移した後に,さて広義積分とは,と考えますと,有界区間上の「有界ではない関数」,すなわち非有界関数はみな広義積分であり,前回例示した事例はこれに該当します.もうひとつの種類の広義積分は積分区間が有界ではない場合の積分で,有名な例を拾うと,
∫sinx/x dx (x=0からx=∞まで)
は広義積分です.被積分関数sin x/xはx=0に対する値が少々微妙ですが,lim(x→0)sin x/x=1となることに留意すると,この関数は有界であることがわかります.積分区間は数直線の右方に無限に伸びて行く区間[0, ∞)ですが,この区間上の積分の意味は,まずx=0からxまで積分を作り(これは有界閉区間上の連続関数の積分ですから,コーシーの定理により確定します),その後にx→∞として極限に移行します.その際,極限値が存在すれば,その極限値をもって積分∫sinx/x dx (x=0からx=∞まで)の値と定め,極限値が存在しないなら,この積分は収束しない,もしくは発散すると言い表わします.ここに例示した広義積分は収束し,積分値はπ/2になります.
もうひとつの例を挙げると,積分
∫cos(x^2)dx, ∫cos(x^2)dx (x=0からx=+∞まで)
は広義積分ですが,ともに収束し,積分値はどちらも(1/2)√(π/2)です.この二つの積分はフレネル積分と呼ばれています.フレネルは1788年に生れ1827年に亡くなったフランスの数理物理学者です.コーシーは「ラプラース,ルジャンドル,ポアソン等が天文学又は物理学上の問題に関して種々の特殊なる定積分に遭遇した」と,高木貞治は述べていましたが,フレネルもまたラプラス,ルジャンドル,ポアソンたちの仲間に入れたいところです.