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平方剰余の理論と相互法則

 ルジャンドルが提案した「ルジャンドルの記号」は今日の数論のテキストにも現れますが、現在普通に行われている定義は、ルジャンドル自身の定義とは異なっています。今日の定義は平方剰余の概念規定から出発します。今、pは奇素数として、pを法とする次数2の合同式
(*)   x^2≡a (mod p)
を考えます。ある数xに対し、x^2とaの差x^2-aがpで割り切れるなら、そのようなxを指してこの合同式の解と呼びます。この合同式に解が存在するとき、「aはpの平方剰余である」と言い、解が存在しないなら、「aはpの平方非剰余である」というふうに言い表わします。合同式(*)には解が存在することもあれば、存在しないこともあります。言い換えると、aはpの平方剰余になることもあれば、ならないこともあります。そこでルジャンドル記号(a/p)を、

  aがpの平方剰余のときは(a/p)=+1、
  aがpの平方非剰余のときは(a/p)=-1

と規定するのが、今日の通常の流儀です。フェルマの小定理に依拠したルジャンドルとはまったく様相を異にしていますが、論理的に見る限り、両者は同等です。言い換えると、aがpの平方剰余なら、aの冪a^((p-1)/2)はpを法として+1と合同になり、aがpの平方非剰余なら、aの冪a^((p-1)/2)はpを法として-1と合同になるのですが、この事実を最初に認識して表明したのはオイラーですので、今日では「オイラーの基準」と呼ばれています。もちろんルジャンドル自身も承知していました。ただしオイラーには「平方剰余」という言葉はありません。また、ガウスの数論には合同を表す記号「≡」はありますが、ルジャンドル記号(a/p)はありません。
 ガウスにはルジャンドル記号はありませんが、ルジャンドル記号を上記のように規定して使用してガウスの発見を書き表すと、ルジャンドルの相互法則と同じ形の命題になります。ガウスはこれを

 「平方剰余の理論における基本定理」

と呼びました。証明にも成功し、しかも当初から何種類もの証明を考えていた模様です。
pとqは異なる二つの奇素数として、二つの合同式

(**)    x^2≡q (mod p)
(***)   x^2≡p (mod q)

を同時に考えてみます。平方剰余の言葉によるルジャンドル記号の定義によれば、合同式(**)が解けるか否かは(q/p)の値によって判定され、合同式(***)の方の可解性を左右するのは(p/q)の値です。そうしてガウスのいう「平方剰余の基本定理」によれば、等式

 (q/p) (p/q)=(-1)^((p-1)/2)((q-1)/2)

が成立するのですから、二つのルジャンドル記号(q/p)と(p/q)の値の間には相互依存関係が認められることになります。具体的に言うと、pとqのうち少なくとも一方が4n+1型であれば、(p-1)/2)と(q-1)/2のどちらかは偶数になり、その結果、積(q/p) (p/q)の値は+1になります。よって、(q/p)と (p/q)は同時に+1になるか、あるいは同時に-1になるかのいずれかです。これを言い換えると、二つの合同式(**)と(***)は同時に解をもつか、あるいは同時に解をもたないかのいずれかであると言えることになります。pとqがいずれも4n+3型の場合にも同様に考えていくと、二つの合同式(**)と(***)は、一方が解けて他方は解けない、という言明が可能になります。これが、ガウスが発見して証明した「平方剰余の理論における基本定理」です。
 ガウスの第一番目の証明は数学的帰納法による複雑な証明で、第二番目の証明は「二次形式の種の理論」に基礎を置く難解な証明です。第三番目の証明は円周等分の理論から取り出される不思議な証明ですが、これはむずかしく、1801年の時点ではガウスもまだ解決にいたりませんでした。ここまでの情景を精密に描写した作品が『アリトメチカ研究』なのですが、留意しなければならない点がいくつかあります。
 はじめの三つは繰り返しになりますが、

1. ルジャンドルには合同の記号「≡」はありません。(これはガウスの創案で、『アリトメチカ研究』が初出です。)
2. ガウスにはルジャンドル記号がありません。
3. ルジャンドル自身によるルジャンドル記号はフェルマの小定理から帰結する簡単な事実に基づくもので、概念上、平方剰余の理論とは無関係です。ただし、「オイラーの基準」はルジャンドルも知っていました。
4. ルジャンドルには「相互法則」という言葉がありますが、「平方剰余」という言葉はありません。
5. ガウスには「平方剰余」という言葉はありますが、「相互法則」という言葉はありません。
6. ルジャンドルは素数の形状理論を完成させたいという数学的意図をもって相互法則を提案しましたが、ガウスには素数の形状理論への関心はありません。

 万事がこんなふうで、ガウスはルジャンドルとは別個に、平方剰余の理論に身を置いてまったく独自に相互法則を発見したのですから、何かしらルジャンドルとはまったく異なる数学的意図を抱いていたと見なければなりません。それはどのようなものだったのかと問うていくと、おのずとガウスの数論の世界に踏み込んでいくことになりますが、その前に命題の呼称について再考しておきたいと思います。
 ルジャンドルが発見したのは「異なる二つの奇素数の間に存在する相互法則」で、ガウスが発見したのは「平方剰余の理論における基本定理」でした。両者のキーワードは「相互法則」と「平方剰余」ですが、これらを組み合わせると、

「平方剰余の相互法則」

という今日の呼称ができあがります。この名称の背景には異なる二つの数学的思索が控えているのですから、「名は体を表す」とは言えず、かえって大きな混乱をひきおこします。
 ルジャンドルとガウスがそれぞれ発見した数論の法則は、オイラーの基準が教える通り、論理的に見る限り完全に同等です。そこで両者を同一視し、呼称もまた折衷して組み立てたのが今日の数論の流儀なのですが、「平方剰余の理論における基本定理」と「平方剰余の相互法則」とは「客観的形式」は同一ではあっても、「主観的内容」はまったく異なっています。深く考えなければならないのはこの点で、つきつめていくと数学の領域からはみだしてしまいます。

 「主観的内容」の差異を無視して、「客観的形式」が同じであれば平然と同一視する姿勢には「近代」の匂いがあります。他方、数学の創造はつねに、ひとりひとりの数学者の思索に独自の「主観的内容」に根ざしているように思います。

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