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岡潔先生をめぐる人々 フィールドワークの日々の回想(5) 紀見峠の岡家の墓地

 岡隆彦さんは戦前、大阪の師範学校を出て教職についた人で、大阪の、たしか河内長野市とうかがったように覚えていますが、小学校の校長先生を最後に退職したということでした。「生誕の地」の石碑のことなどをお尋ねすると、叔父は、というのは岡先生のことですが、本当はここで生れたのではないという人もいるが、ともかくまあ、ああいう碑を建てたのだというふうな話をしてくれました。句碑の背後の倉は岡家の倉で、現在は隆彦さんが所有して管理しているとのことでした。「929番地の家」は元家と呼んでいるそうで、隆彦さんの父親の憲三さんはその元家で生れました。高野街道に沿って大阪方面から和歌山県に入ると、街道の右側は急斜面になっていて、何箇所か、崖を下る山道がついていますが、左側もまた山の斜面です。斜面の一部分だけ、平らにならして道をつけたような恰好で、狭い道筋の両側に民家が並んでいます。岡家の元家は左側の斜面に沿う位置にあり、崖崩れの直撃を受けたのであろうと容易に推察されました。
 崩壊したのは元家の勝手口にとどまった模様ですが、今後も危ないと判断したためか、同じ紀見峠の「935番地」の土地に新しい岡家を作りました。その際、元家の倉や風呂など、使えるものは引っ張ってきてそのまま使いました。
 新しい岡家の位置は山の斜面の麓ではなかったのですが、昭和14年になって道の拡幅工事が行われたとき、岡家の敷地の半分ほどに道路が通ることになりました。それで敷地を内務省に売却し、岡家は峠の麓の慶賀野地区に転居したのですが、倉と風呂岡潔は高野街道の向側に引っ張って保存しました。その倉の脇に「生誕の地」の石碑が立ち、倉の前に「誕生の地」の句碑が配置されました。
 昔日の岡家の元家は「岡屋(おかや)」という旅籠でした。その岡屋の倉が今も保管されていることを隆彦さんに教えられ、感慨がありました。元家の風呂も健在で、倉の隣の津田さんの家の一部になって使われているということでした。
 戦争の末期のことですが、岡先生の妹の泰子さんの家族が静岡市から疎開して紀見峠にもどったとき、この倉に住んだともうかがいました。岡先生に妹がいることは岡先生のエッセイで承知していましたが、具体的な消息を耳にしたのははじめてのことでしたので、びっくりしました。泰子さんは岡先生と三つ違いで、日露戦争が始まった年の明治37年(1904年)のお生れですから、平成8年で数えて93歳になります(9月生れですので、平成8年2月の時点では満92歳です)。御高齢ですが非常にお元気とのことで、お住まいの東京の千駄木の住所を教えていただきました。岡家の推移が判明したり、泰子さんの住所がわかったり、このようなあれこれが即座に手に入るところはフィールドワークならではの醍醐味です。
 こんな話をうかがっているうちにあたりはすっかり暗くなりましたが、これから岡家の墓地に案内すると隆彦さんが提案しました。岡家の墓地が紀見峠にあることも知らかったのですから、これには意表をつかれましたが、この際、追随しようとすぐに決めました。隆彦さんは外出の用意をし、懐中電灯を手にして先に立って歩き出しました。雪はまだ止まず、懐中電灯の光に雪の片々が舞っていました。
 つい先ほど歩いてきた高野街道を逆向きにもどると、途中に岡家の元家の跡地がありました。懐中電灯の光の中に簡単な石組みが照らし出され、ここが元家、と隆彦さんの言葉が続きました。長雨で山がくずれたのは明治39年(1906年)の6月のことですから、平成8年の時点でちょうど90年。旅籠「岡屋」の名残りを留める小さな遺跡です。
 元家の跡地をすぎてすぐ、高野街道をそれて山の斜面をのぼっていく小道に入りました。足元の薄い積雪が凍りつき、すべってころびそうになりながら歩を運んでいくと、傾斜のゆるやかな広場に出ました。山の斜面を平いて簡単に整地して墓地にしたのです。奥の一列が岡家の墓地。親戚の北村家の墓地もここにありました。
 岡先生のお墓はみちさんと二人でひとつの夫婦墓で、墓石の正面にお二人の戒名が刻まれていました。
  春雨院梅花石風居士
  春日院藤蔭緑風大姉
「春雨院」が岡先生、「春日院」がみちさんです。墓石の裏側に刻まれているのは歿年です。
 昭和五十三年三月一日
  俗名 潔 行年七十八才
 昭和五十三年五月二十六日
  俗名 ミチ 行年七十六才
岡先生が亡くなってほどなく、三箇月もたたないうちにみちさんもまた世を去りました。向かって左側の側面の文字は、
  昭和五十四年二月吉日
    岡煕哉建立
岡煕哉(おか・ひろや)さんは岡先生の長男です。右側面に刻まれていた岡先生の句ひとつ。

   めぐり来て
    梅懐かしき
      匂ひかな
        潔
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西暦2011年は岡潔先生の生誕110年の節目の年です。
西暦2013年は岡潔先生のエッセイ集『春宵十話』が刊行されてから50年目の節目です。

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