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 ラグランジュは,無限小解析,すなわち今日のいわゆる微積分は「原始関数と導関数の解析学」にほかならず,微分計算と積分計算は原始関数と導関数を対象とする計算であると言っています.それなら何をもって原始関数と呼んでいるのかといえば,それは関数y=f(x)を展開するときの初項のことで,しかもその初項というのは,提示された関数そのものを指すというのです.まずはじめに与えられた関数それ自体に対し原始関数という呼称が付与されるということで,いかにも不思議な説明ですが,ラグランジュの言葉の続きを読むと,「原始関数」は「導関数」に対する言葉であることがわかります.
 関数y=f(x)において変化量xに増分Δxを加え,f(x+Δx)をテイラ−級数に展開すると,
 f(x+Δx)=f(x)+a_1Δx+a_2(Δx)^2+a_3(Δx)^3+...+a_n(Δx)^n+...
という形の式が生じます.ここで,係数a_nは関数f(x)の導関数を用いて,
  a_n=(1/n!)f^(n)(x)
と表示されます(f^(n)(x)はf(x)のn階導関数).この式を見るとラグランジュの言葉の意味がよくわかります.すなわち,導関数とは,与えられた関数から「導き出された関数」という意味であり,それらの導関数が「そこから導出されるところの元の関数」を指して原始関数と呼んでいるのであり,提示された関数が原始関数という呼称を獲得するということは,導関数を考えることと対をなしていることになります.原始関数も導関数もきわめて自然な用語法であり,何事もなく受け入れることができます.
 これに対し,コーシーの『解析教程』ではF'(x)=f(x)となる関数F(x)のことがf(x)の原始関数と呼ばれていましたが,この場合には,「提示された関数を導出する元になる関数」が原始関数であることになり,ラグランジュの用語法と比べてちょうど逆になっています.それに,一連の導関数との関連も断ち切られています.
 ラグランジュとコーシーの間に何かしら断絶があることは想定されますが,関数の概念を微積分の基礎に定めている点は共通しています.ライプニッツからオイラーにいたる時期に単に積分と呼ばれたものをコーシーは不定積分と呼び,関数概念が微積分の基礎になるのと歩調を合わせて原始関数の概念が生れました.兄弟のように見える二つの概念の橋渡しをすることを目指して,コーシーは定積分の概念を記述しました.実際に橋を架けることにも成功しましたが,その橋には「微積分の基本定理」という呼称がよく似合います.

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