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不定積分の話が展開してルベーグ積分に及んでしまいましたが,語り始めた当初は,不定積分と原始関数という言葉の本来の意味合いを認識し,合わせて両者の関係を明らかにしたいというほどの考えでした.これらの二つの概念は微積分ではおなじみでありながら,似ているようでもあり似ていないようでもありますし,歴史的な出所も不明瞭です.ロピタルやオイラーのテキストには不定積分も原始関数もどちらも見あたりません.ラグランジュのテキストには原始関数という言葉は出ていますが,不定積分はありません.同じ一冊の書物に両方の言葉が同居するのは,おそらくコーシーの『要論』が最初ではないかと思います.
 コーシーの『要論』の第26講には「不定積分」という見出しが附されていますが,読み進めていくと,やや不思議な定義に出会います.すなわち,コーシーは方程式
  dy=f(x)dx
を満たすyが存在する場合,それを「不定積分」と呼び,
  y=∫f(x)dx
と表記するというのです.この場合,与えられているうのは微分式f(x)dx であり,不定積分という名で呼ばれるyは,「その微分dyが,与えられた微分f(x)dxに一致するような関数」のことと思いますが,コーシーはなぜかこの場面に限って関数という言葉を使わず,「微分方程式dy=f(x)dxwみたすyの一般値」と呼んでいます.微分式f(x)dxにおける関数f(x)が連続なら,不定積分y=∫f(x)dxはf(x)の原始関数になりますし,コーシーの積分論では対象が連続関数に限定されているのですから,不定積分などという用語を敢えて導入する必要はなく,原始関数のみで十分のように思われるのですが,コーシーはそうしませんでした.なぜかというと,不定積分という呼称こそ,コーシー以来の比較的新しいものですが,概念それ自体は微積分の草創期からすでに存在していました.ライプニッツやベルヌーイ兄弟やロピタルやオイラーが単に「積分」と呼んでいたものが,すなわちコーシーの不定積分にほかなりません.
 これに対し原始関数という概念は当初は存在しませんでした.オイラー以降,関数の概念が生い立って,ラグランジュにいたって微積分の対象が関数になるという状勢が現れてはじめて,原始関数というものが意味をもつようになりました.

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