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曲線と関数の関係は微積分の根幹に触れる問題をはらみ,考えを突き詰めていくと,得体の知れない数学的状勢が現れて行く手をさえぎられてしまいます.今日ではひとまず関数概念を極端に一般化するという方針に出て,集合から集合への一価対応という,それ自体としては何の意味もない観念をまずはじめに提示します.一価対応を関数と呼ぶというだけのことですから,この概念に固有の意味は何もなく,ただ言葉があるのみにすぎません.今日の数学の基礎を作る諸概念はたいていみなこんなふうですから,概念の意味を問うても答はありません.このあたりの消息が,しばしば数学の抽象性と言われる所以なのかもしれません.ただし,単純で無意味な観念は意味を喪失している分だけ汎用性が高く,数学の世界の全体を透明化するのに有効なことがあり,しばしば抽象化の有効性として語られます.
 今日の数学の概念に意味はありませんが,どの基本概念も深刻な歴史を背負っています.関数概念については歴史的経緯を多少とも観察してきましたが,関数とは何か,と問うて,結局のところ,集合間の一価対応に帰着していったのは,それなりの理由があってのことでした.その理由には「意味」があり,オイラー,ラグランジュ,コーシー,ディリクレ,リーマン,ヴァイエルシュトラス等々,時代の変遷に連れて,各々の時代を代表する数学者たちが深刻な思索を積み重ねてきました.その終局の場において今日の局面が開かれてくるのですから,数学という学問を理解するために学ばなければならないのは,数学の創造に携わったひとりひとりの数学者の思索の姿です.数学と数学史を切り離すことのできないわけもそこにあります.
 もし歴史を捨象して,たとえば関数とは集合間の一価対応と学ぶだけに留まるなら,数学は安直な暗記ものにすぎないことになります.意味の欠如した簡単な諸概念を記憶し,単純で形式的な論理の鎖を追うだけですから,あらゆる数学はやすやすと理解することができます.ただし,何事かを学んだという実感は伴いません.
 コーシーの『解析教程』(1821年)に話をもどすと,この作品の正確な書名は
『王立諸工芸学校(エコール・ポリテクニク)の解析教程 第一部 代数解析』.
というのですが,内容は,極限の概念の導入,関数の連続性,級数の収束性の判定などに終始して,微分も積分も語られません.言わば解析教程の前史というべき作品です.書名に「第一部」とあるように,コーシーは続篇を企画していたようで,恐らく第二部,第三部と続けていって微分や積分の理論を繰り広げる考えをもっていたのであろうと推定されます.実際にはそのようにはなりませんでしたが,その代わり,二年後に
  『無限小計算講義要論』(1823年)
という作品を出版しました.「要論」はフランス語の「re'sume'(レジュメ)」の訳語ですが,正式な書名は
 『王立諸工芸学校(エコール・ポリテクニク)で行われた無限小計算についての講義の要論 第一巻』
というのです.『解析教程』の続篇の簡約版のような感じの作品で,やはりエコール・ポリテクニクにおける講義録であり,微分と積分が取り上げられています.「第一巻」と明記されていますが,第二巻は現れませんでした.

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