曲線をもって関数を認識しようとするフーリエの言葉は,『熱の解析的理論』の随所に見られます.次に挙げるのも第3章,第6節からの引用です.
《それゆえ,弧の倍数の正弦や余弦を用いて作られる級数は,定められた限界の間において,およそ考えられる限りのあらゆる関数を表したり,不連続性をもつ線や面の縦座標を表すのに適している.展開の可能性が明らかにされただけでなく,級数の諸項を計算するのも簡単である.等式
φ(x)=a_1 sinx+a_2 sin 2x+a_3 sin 3x+...+a_i sin ix+...
において,任意の係数の値は定まった積分値,すなわち
(2/π)∫φ(x) sin ix dx
の値である.関数φ(x)にかかわらず,すなわち,それを表す曲線の形がどうあろうと,この積分は微分積分計算に取り入れることのできる一定値をもつ.このような定まった積分値は,ある与えられた区間において曲線と軸に挟まれた領域の総面積∫φ(x)dxの値や,この領域の重心あるいは何らかの固体の重心の縦座標のような力学的量の値に類似している.こうした量は,物体の形に規則性が認められようが,まったく任意の形が与えられていようが,指定可能な値をもつことは明らかである.》(第229節より)
「関数φ(x)にかかわらず,すなわち,それを表す曲線の形がどうあろうと...」という言葉が,フーリエの関数概念を知りたいと願うぼくらの耳に強く響きます.関数が曲線を表すのではなく,逆に曲線が関数を表すというのです.次に引く言葉でも,同主旨の認識が繰り返されています.
《関数を三角級数に展開することに関して,この節で証明されたすべてのことから帰結する事柄は次の通りである.すなわち,関数f(x)が提示され,その値がx=0からx=Xまでの一定区間において任意に描かれた曲線の縦座標によって表されるとすれば,この関数はつねに,弧の倍数の正弦だけを含む級数や余弦だけを含む級数,あるいは正弦と余弦を含む級数,またあるいは弧の奇数倍の余弦だけを含む級数に展開することができる.》(第235節より)
注目に値するのは,「関数f(x)が提示され,その値がx=0からx=Xまでの一定区間において任意に描かれた曲線の縦座標によって表される」というところです.平面上に任意の曲線Cが描かれているとして,同じ平面上に,「軸」と呼ばれる一本の直線Lをやはり任意に引いてみます.軸L上に,「始点」と呼ばれる点Aを任意の位置に指定すると,直線Lは始点Aにより二分されますから,一方の側を「正」,もう一方の側を「負」と定めます.直線L上の任意の点Pに対し,始点AからPまでの線分APの長さを測定し,Pが軸Lの正の側にあればその長さそのものをxと定め,Pが軸Lの負の側にあれば,その長さに負の符合つけたものをxと定めます.オイラーはこのxを点Pの切除線と名づけましたが,切除線というのはオイラー研究所の独自の訳語であり,一般に行われているのは「横線」という訳語です.
さて,曲線C上の任意の点Mから直線Cに向かって,つねに一定の角度をもって線分を降ろし(垂線を降ろすことが多いです),軸との交点Pを定め,線分MPの長さを測定してみます.平面全体は軸Lにより二分されますから,軸の場合と同様に,「正の側」と「負の側」の区別が意味をもちます.点Mが正の側にあれば,線分MPの長さそのものをyと定め,そうでなければ線分MPの長さに負の符合をつけたものをyと定めます.このyが曲線Cの「向軸線」ですが,流通している訳語は「縦線」です.ともあれこれで,軸L上の切除線xと曲線Cから軸に向かう向軸線yの間に連絡がつきました.
軸L上の切除線から出発すると,曲線Cを媒介として「関数」が認識されます.軸L上に点Pを任意に定め,その切除線をxとします.点Pを通り,軸Lとつねに一定の角度(たとえば直角)で交叉する直線を引き,曲線Cとの交点を採集し,その向軸線をyとします.このyがフーリエの言う「曲線の縦座標によって表される関数」であり,切除線xに応じて定まるのですから,yはxの関数です.すでにオイラーが提案していた関数(第三の関数)ですから,フーリエはオイラーを踏襲していることがわかります.
交点は一個とは限らず,複数個のこともあり,しかも無限に多くの交点が見つかることもありえます.他方,交点がひとつも存在しないこともあります.交点が存在する場合には向軸線yが定まりますが,交点は一個とは限りませんので,一般にyは多価関数になります.今日の関数の定義では「一価性」が要請されていますが,オイラーとフーリエの関数はまだ一価とは限りません.
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