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今度は高木貞治『解析概論』から関数の定義を採集してみたいと思います.この本の第1章「基本的な概念」の第8節は「函数」(この漢字が使われています)と題されていて,冒頭に関数の定義が登場します.

《区間[a, b]が与えられたとき,
a≦x≦b
なる数はこの区間に属するという.もし我々がxにこの区間に属する任意の数値を与えようと欲するならば,xをこの区間における変数という.そのときxはこの区間内において自由に変動しうるのである.》
《今この区間内におけるxの個々の数値に対応して,それぞれ変数yの数値を確定すべき或る一つの基準が与えられたと仮定するとき,yをxの函数といい,特定の函数を示すために特定の文字を用いて
y=f(x), y=F(x)
などと書く.函数yの値はxの値に伴って変動する.よってxを独立変数,yを従属変数という.》

 この定義は相当に広く流布しているのではないかと思いますが,ここには「変数」という言葉が現れていて,直観的になじみやすい感じがあります.反すうは「自由に変動する」と言われていることでもありますし,変数には何かしら変動する力が内在していて,自律的に変化するかのような印象を受けますが,上記の定義の文言をよく観察すると,根幹を作っているのは「xに対してyが対応させる基準が与えられる」という一事のみであり,他のあれこれの説明は枝葉末節というか,削除してもさしつかえません.文字xは区間[a, b]に所属する数を表す記号にすぎませんが,もし「xにこの区間に属する任意の数値を与えようと欲するならば」,そのときxは変数と呼ばれることになります.ですが,これは文字xの自由変化を単に心に思い描くというだけのことですし,変化すると思えば変化するようでもありますが,定義を見る限り,自律的に変化する力がxに備わっていると読み取ることはできません.すなわち,「変数は実際には変化しない」のです.
 オイラーの無限解析には変化量と定量という概念があり,『無限解析序説』の巻1では,関数は「変化量と定量を用いて組み立てられた解析的な式」として規定されました.オイラーの変化量は力学的な観念から抽出された概念で,本当に変化する量が想定されていたと思われますが,関数概念はここから出発し,曲折を経て『解析概論』の定義にたどりつきました.『解析概論』に見られる「変数」の一語の背後には,変化量という,オイラーのころからの観念が控えています.このような歴史的経緯をきっぱりと捨て去れば,『シュヴァルツ解析学』に見られる関数概念がおのずと手に入ります.オイラーと高木貞治やシュヴァルツの間に分岐点があり,その時点を境にして変数は変化することをやめてしまいました.

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