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『解析概論』に出ている微分可能性の定義は今日の微積分の教程ではごく普通の定義であり,だれもみな一番はじめにそのように教えられたと思います.『解析概論』も『シュヴァルツ解析学』も「関数を微分する」という点は共通していますが,ロピタルのテキストではそうではなく,微分の対象は「変化量」でした.関数概念はロピタルに続くオイラーの段階ではじめて解析教程の全面に打ち出されましたが,オイラーもまた微分するのはどこまでも変化量それ自体でした.方向がはっきると転じて関数を微分するようになったのはラグランジュあたりからで,コーシーの解析教程の段階で完全に定着しました.『解析概論』も『シュヴァルツ解析学』もコーシーの系譜を継承し,「関数を微分する」という点に着目する限り,同じ数学的世界に生きています.
 一個の実変数xの微分可能な関数y=f(x)を考えて,x-y平面上にこの関数のグラフΓを描いてみます.Γは(x, f(x))という形の平面上の点の集まりですが,一変数の実数値関数を考えているのですから,そのグラフであるΓは一般に「曲線」になります(それなら曲線とは何だろうかという素朴な疑問がここで生じますが,この点については後に考察します).そのグラフ上に点P=(a, b), b=f(a),を取ります.関数f のx=aにおける微分係数をA=fユ(a)で表して,関数
 (f(x)-f(a))/(x-a)-A=φ(x)
を考えると,微分可能性の定義により,xがaに近づくとき,この関数は0に向かって収束していきます.この等式を変形すると,
 f(x)=A(x-a)+b+φ(x)(x-a)
となりますが,この等式を見ればわかるように,xがaに近いとき,関数y=f(x)は一次関数y= A(x-a)+bとほぼ同じです.言い換えると,関数y=f(x)は一次関数y= A(x-a)+bによりx=aの近くで近似されます.そうして一次関数y= A(x-a)+bのグラフは点P=(a, b)を通る直線ですから,図形に即して観察すると,その直線は関数y=f(x)のグラフの点Pにおける接線にほかなりません.これが,今日の微分法による接線の引き方です.
 図形から離れて上記の等式を別の視点から観察すると,二つの関数f(x)-bとA(x-a)はx=aの近くではほぼ同じです.すなわち,関数f(x)-bは関数A(x-a)により近似されます.ところで,「xに定数Aを乗じる」という演算は,実数の全体Rを線型空間と見るとき,RからRへの線型写像です.その写像をLで表すと,「関数fはx=aの近くで線型写像Lにより近似される」と言うことができます.これは微分可能性の言い換えただけなのですが,『シュヴァルツ解析学』ではこの表現それ自体を微分可能性の定義として採用したことになります.ロピタルには関数の概念がありませんから比較することはできないのですが,もしロピタルが関数概念を知ったなら,ロピタルはきっと,「関数のグラフとして描かれる曲線に接線を引けること」をもって,微分可能性の定義としたと思います.

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