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数学史研究の回想63 発見を定義にする

今日の楕円関数の概念はアーベルが発見した第1種逆関数に由来しますが、第1種逆関数が今日の楕円関数になるためには、2重周期性に加えて、解析性の概念の自覚が醸成される必要があります。これは複素変数関数論の形成と連繋する課題で、この形成史を叙述するにはコーシーの留数解析あたりから説き起こして、ヴァイエルシュトラスとリーマンの複素関数論を回想しなければならないところです。
 関数の解析性の自覚が得られると、第1種逆関数は「2重周期をもつ解析関数」と認識されるようになりました。ヴァイエルシュトラスとリーマンのねらいもそこにありました。アーベルは「楕円関数研究」の時点ですでに第1種逆関数の零点や「関数の値が無限大になる点」の配置状況に着目して詳しく調べていますが、解析関数の概念を土台にして観察すると、第1種逆関数の値が無限大になる点というのは解析関数の「極」であることが判明します。これを要するに、第1種逆関数というのは「全複素平面上で定義された、2重周期をもつ有理型関数」であることになります。
 アーベルは複素変数関数論を持ち合わせていませんでしたが、第1種逆関数を複素変数の関数として考察するというアイデアはもっていました。アーベルには関数の解析性の認識が欠如していたから不完全だという批評は理屈の上ではまちがっているわけではありませんが、アーベルのアイデアがなければヤコビもヴァイエルシュトラスもリーマンも出る幕はなく、今日の複素変数関数論は成立しなかったろうと思います。
 アーベルの目標が楕円関数の研究にあることはアーベル自身の論文「楕円関数研究」の表題に見られるとおりですが、アーベルのいう楕円関数が楕円積分であることもまた既述のとおりです。楕円積分に関する何かしらを研究するために、アーベルは第1種逆関数に着目したのですし、そこにアーベルの創意が現れています。第1種逆関数の本性の解明を押し進めると「全複素平面上で定義された、2重周期をもつ有理型関数」であるという認識に到達します。そこで話の順序を逆転させて、「全複素平面上で定義された、2重周期をもつ有理型関数」を指して楕円関数と呼ぶということにすれば、それで今日の楕円関数の定義が得られます。「発見されたことを転用して定義にする」という、数学でしばしば見られるやり方です。
 「2重周期をもつ有理型関数を楕円関数という」という楕円関数の定義の文言をどれほど眺めても何の印象も受けませんが、この簡明な定義の根底には、第1種逆関数というアーベルのアイデアが存在します。源泉から出発して皮の流れをたどっていけば、何もかもがみな判然として、いろいろな疑問はみな消失します。定義を理解する鍵は歴史の中にひそんでいるということの著しい事例です。

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数学史研究の回想62 楕円関数と第1種逆関数

今日の数学で楕円関数というと、複素平面全体上で定義されて、2重周期をもつ解析関数のことで、楕円関数論はこの定義とともに始まります。この定義を見ても、なぜこのような関数を考えるのか、なぜ楕円関数という名で呼ばれるのか、伝わってくるものは何もありませんので大いに困惑させられてしまいます。ところがアーベルによると、楕円関数論のはじまりは微分方程式論であるとのこと。それでまたしても困惑させられてしまうところまで、話が進みました。
 楕円関数論というくらいですから、そのねらいは楕円関数のいろいろな性質を調べることであろうと思うのが自然な考えですが、アーベルのいう楕円関数というのは今日の語法でいう楕円関数ではなく、楕円積分を指しています。アーベルの「楕円関数研究」の序文の言葉を続けると、アーベルはこんなふうに歴史を回想しています。

《オイラーの後、ラグランジュは積分
∫Rdx/√(1-p^2 x^2)(1-q^2 x^2)(ここでRはxの有理関数)
の変換に関するエレガントな理論を与えて、いくばくか貢献した。しかし、これらの関数の本性を深く究明した最初の人、そしてもし私が思い違いをしているのでなければ唯一の人物はルジャンドル氏である。彼はまず楕円関数に関する一論文の中で、続いてそのすばらしい『数学演習』の中で、これらの関数のエレガントな性質の数々を繰り広げ、またその応用を示した。この著作の刊行以来、ルジャンドル氏の理論に付け加えられたものは何もなかった。これらの関数に関するその後の諸研究を、喜びを味わうことなく目にする者はないであろうと私は思う。》

 ラグランジュは∫Rdx/√(1-p^2 x^2)(1-q^2 x^2)という形の積分を考察したと言われていますが、積分記号下の関数に平方根があり、その平方根記号の下にあるのは変数xの4次多項式です。このような積分は「楕円的な超越物(楕円的であって、しかも超越的なもの)」などと呼ばれていたのですが、ルジャンドルは新たに「楕円関数」という呼称を提案しました。「関数」の一語をここで使うのは、それ自体がきわめて斬新な印象を与える出来事でした。
 ルジャンドルは理論そのものの進展に大きく寄与するということはなかったのですが、オイラーとラグランジュが残した大量の研究を集大成する仕事に力を発揮して、大部の著作をたくさん書きました。アーベルもヤコビもそれらを読んで勉強しましたので、用語や記号の使い方の面で影響を受けています。アーベルが楕円積分を楕円関数と呼んだのもそのためで、ルジャンドルの提案が継承されています。
 ルジャンドルはルジャンドルのいう楕円関数、すなわち楕円積分を3種類に区分けして、第1種、第2種、第3種の楕円関数を定めました。アーベルは第1種楕円関数には1価性をもつ逆関数が存在することに着目し、「楕円関数研究」においてその逆関数の性質を書き並べました。特別の名前はつけられていませんが、別の論文を見ると「第1種逆関数」という呼び方がなされている場面にときおり出会います。
 アーベルはこの第1種逆関数の変数を実数域に限定せずに複素数域に拡大したのですが、これは加法定理の支援を受けることにより実現されました。楕円積分の加法定理ならすでにオイラーが発見していましたが、それを第1種逆関数の言葉で書くと「第1種逆関数の加法定理」が手に入ります。
 第1種逆関数の変数の変域を複素数域に拡大すると、第1種逆関数の際立った性質が浮き彫りにされてきます。それが2重周期性で、その結果、第1種楕円関数の逆関数は今日の語法での楕円関数であることが明らかになります。この状況を指して、「アーベルは楕円関数を発見した」と言われることがあります。

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