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リーマンを語る 205. ルジャンドルとヤコビの往復書簡より その11

 ルジャンドルはヤコビが発見した一般定理の正しさに確信がもてず、ヤコビに対して証明を求めました。

〈これから先の「はしご」では、余計な方程式の個数はだんだんと増えていきます。それで私は、完全に一般的な形で考察された命題は疑わしく思うのです。ところが、あなたのお手紙を受け取ったところ、三角的形状のもとでの二つの一般式が目に留まりました。あなたの理論のすべてがそれらの公式に依拠しているのです。それ以来、あなたがあなたの一般命題を確立したのは、帰納的考察によってではなく、深く、しかも厳密な解析に基づいているのだと私は考えています。今のところ、私にできるのは、あなたをこれらの二公式へと導いた解析を教えてほしいという望みを表明することくらいのことだけなのです。〉

〈このテーマには長年にわたって親しんできましたので、方法について、もしくはその基本原理について、簡単に示唆していただければ十分です。私もある程度の時間をかければ、この研究で成功を望めるとは思いますが、あなたにはそんな私の苦痛を免じる大きな義務を負っているのです。私は私の著作の巻Iへの「補足」を、あなたの方法によって、著者の名誉ある正当な言及を添えて書くことを強く望んでいます。その補足では、あなたのみごとな発見を完全な姿で説明する考えです。あなたの発見は私の「補足」の最高の栄誉のひとつとなることでしょう。〉
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リーマンを語る 204. ルジャンドルとヤコビの往復書簡より その10

 「モジュールのはしご」という言葉がひんぱんに登場しますが、その実体は何なのでしょうか。おおよその状勢は推察されますが、明確に認識するにはやはりルジャンドルの著作を参照しなければならないと思われます。ではありますが、あまり寄り道ばかりで話が錯綜としても困りますので、ここではルジャンドルの手紙をもう少し先に読み進めることにして、ルジャンドルの著作の概観は後回しにしたいところです。
 ヤコビの発見を言葉を尽くして賞賛したルジャンドルですが、不満もありました。ヤコビのノートには証明が欠如していたからです。

〈ではありますが、あなたは素数7と結ばれている第四の「はしご」、素数11と結ばれている第五の「はしご」、さらにいかなる例外もなしにどこまでも限りなく続くあらゆる素数に対して「はしご」が存在すると主張するのですが、そのような無限に多くの変換にはいかなる解析関数も実例を示していません。それで、そのような心を惹きつけられる想像は、少々押しつぶされてしまいます。〉

〈「天文報知」の第123号には、この主張のいかなる証明も見いだされません。それで、私は告白するのですが、その命題は正しくはないのではないか、またあなたは帰納的に考察して推測しただけなのではないかと思うようになりました。実際のところ、あなたの定理IIを確かめるために私が用いた十分に簡明な方法によると、未知数よりも二つだけ多い方程式がもたらされましたが、それらは満たされることがわかりました。これと同じ方法を素数7に対する引き続く「はしご」に適用すると、未知数よりも三個だけ多い方程式が現われます。私はこの計算を始めましたが、それらの三つの方程式ははたして他の諸方程式の帰結にすぎないのかどうか、確信するにはいたっていません。〉

 ヤコビの発見の報を受けて、ルジャンドルは独自に確かめようとしたのですが、この時点ではまだ達成できませんでした。ですが、新進のヤコビの発見を確かめようとするだけでもたいへんな力を要することですし、1827年11月のルジャンドルは満75歳という高齢であったことも、ここで想起されるべきであろうと思います。

リーマンを語る 203. ルジャンドルとヤコビの往復書簡より その9

 ルジャンドルは楕円関数の変換理論を回想し、ヤコビの発見を賞賛します。

〈素数3と結ばれている第二の「はしご」の発見により、私は超越的解析の非常に多くの諸結果を解明することができるようになりました。それらは他の諸公式をもってしては確かめることができなかったのです。この「はしご」の力を存分に展開して第31章において私の目に明らかになったいろいろな結果により、また特に、この「はしご」は一般に9次方程式に依存する関数Fの3等分を二つの3次方程式に帰着させるのですが、その力により、私は、この状勢は関心を寄せるだけの値打ちがあると思いました。最後に、既知の二つの「はしご」の組み合わせは、巻Iの326頁で言及した一種の解析的な市松模様を作る方法を私に与えてくれました。その市松模様の目を二方向に無限に重ね合わせていくと、そこには与えられた同一の関数Fのあらゆる変換が含まれます。〉

「解析的な市松模様」の原語はDamier analytiqueです。とりあえず仮にこんなふうに訳語をあててみたのですが、何を意味しているのか、実はまだわかりません。
 楕円関数の等分への言及も見られ、3等分は9次の代数方程式に依拠すると言われています。このあたりの認識は正確ですが、3等分なのにどうして次数が9になるのかという疑問は抱いていない模様です。

〈あなたの第三の「はしご」は、あらゆる方向に無限に重ね合わされる立方体を空間の三方向に広げていきましたが、そこには関数Fのすべての変換が含まれています。それゆえ、それらの立方体は空間全体を埋め尽くすのです。〉

 ヤコビの発見はルジャンドルの発見に直接つながっていることが明記されています。ルジャンドルにとって、ヤコビの発見の意義はこのうえもなく明瞭でした。

リーマンを語る 202. ルジャンドルとヤコビの往復書簡より その8

 ルジャンドルとヤコビの往復書簡のうち、ヤコビからルジャンドルへの最初の一通を読むだけですでに相当に長い時間がかかりました。ヤコビの手紙がそもそも長文だったことが大きな理由なのですが、流し読みでは意を汲むのがむずかしいことでもありますし、なるべく全文の訳出を試みながら進んでいくほかはありません。
 第2書簡はルジャンドルからヤコビへの手紙で、日付は1827年11月30日です。ヤコビの手紙の日付は8月5日でしたから、この間、5ヶ月ほどの日時が経過しています。何か事情があったのか、ヤコビの手紙はなかなかルジャンドルの手もとに届かなかったようでした。ルジャンドルは返信の冒頭でそんなことを書いています。

〈あなたが光栄にも去る8月5日の日付でお書きいただいたお手紙を、数日前にようやくミヒャエル・ライス氏の手から受け取りました。楕円関数の理論でのあなたのみごとな発見のことは、シューマッハー氏の「天文報知」の第123号にあなたが掲載した二通の書簡を通じて、すでに承知しておりました。それらの手紙に含まれている定理Iは、私が私の『楕円関数概論』の巻Iの第31章書性質を叙述したモジュールの第二の「はしご」と完全に一致しますので、私はもう知っていました。〉

〈『楕円関数概論』の巻Iは1825年に印刷に附され、同年9月12日の会合でアカデミーに提示されました。巻IIは1826年になってようやく印刷されましたが、今年の1月になってやっと、この著作の全巻が「トロイテルとヴュルツさん」のところで販売されるようになりました。ですから、あなたが私の著作のことを知らず、あなたの独自の研究が、私があなたより2年前に刊行したのと同じ結果に導かれたとしても、私にとっては疑わしいことではありません。〉

 ルジャンドルはこんなふうに、ヤコビが発見した二定理のうち、定理Iについて優先権を主張しました。ヤコビはルジャンドルの著作『演習』は読んでいましたが、それを発展させた著作『概論』のことは知らなかったのだろうと、ルジャンドルは言うのです。定理IIについてはヤコビの独創を承認しています。

〈ですが、明らかにあなたのものと思われるもの、それは、モジュールの第三の「はしご」の発見を内容とする定理IIです。それは、あなたが正当にも数5に対応すると指示した「はしご」です。私はこの定理を私自身の方法により確かめたのですが、完全に正しいことがわかりました。この発見が私の目から逃れてしまったのは残念ですが、あの美しい理論に加えられたこれほどまでにめざましい完成を目の当たりにすることに、非常に鮮明な喜びを感じないわけにはいきませんでした。私はこの理論の創始者と言ってさしつかえないと思いますし、40年以上にもわたってほとんどひとりで開拓してきたのです。〉

 ルジャンドルが「この理論」と言っているのは変換理論のことのように思われますが、40年以上も研究してきたというところをみると、楕円関数論の全体のことを指しているのかもしれません。あるいは、楕円関数論の中心テーマを変換理論と見ていたようでもありますから、この区別は意味をなさないようでもあります。いずれにしてもルジャンドルには楕円関数研究の開拓者という自負があった様子がうかがわれます。

リーマンを語る 201. ルジャンドルとヤコビの往復書簡より その7

 ヤコビは手紙の末尾で数論の話題を持ち出して、平方剰余相互法則の独自の証明を報告しましたが、なお一歩を進めて3次剰余の理論を語りました。3次剰余や4次剰余の理論というのはつまりガウスの数論のことにほかなりません。ルジャンドルもこれには少々困惑したのではないかと思います。

〈3次剰余と4次剰余に関連するいくつかの定理を言い添えておきたいと思います。それらはみなひとつの同じ一般定理から帰結するものです。これらはこれまでに提示されたこの種の定理のうち、一番はじめのものです。〉

〈6n+1という形の素数pが与えられたとき、他の素数qは、4pが
  L^2+27q^2 M^2 または q^2 L^2+27M^2
という二通りの形のいずれかであるとき、そのつどpの3次剰余になります。
 ただしq=2とq=3の場合には第二の形は除外しなければなりません。
 また、qは7よりも大きい素数とすると、qは、pが(qχ+mM)^2+27M^2という形のとき、そのつどpの3次剰余になります。数mは次に挙げる表によりqとの関連のもとで与えられます。

  q = 11 13 17 19 23 29 31 37 ・・・
     4  1  3  3 2  1  5 8 ・・・
          9  9 8  2  7 3 ・・・
               11 11  6 9 ・・・
                 13 11 7 ・・・
                     12 ・・・
                      ・・・                            

したがって、たとえば数37は、4pが

  L^2+36963M^2, 1369L^2+27M^2
(37χ+3M)^2+27M^2, (37χ+9M)^2+27M^2,
(37χ+7M)^2+27M^2, (37χ+12M)^2+27M^2,
(37χ+8M)^2+27M^2

という7通りの形のいずれかであるとき、そのつどpの3次剰余になります。
 数4pが上記の定理で定められた形のいずれにも含まれていないときには、数qはpの3次剰余にはなりえません。〉

〈ガウス氏は二年ほど前に、4次剰余の理論に関する最初の論文をゲッチンゲン協会に提出しました。4次剰余の理論は3次剰余の理論よりもずっとやさしいのです。この論文はまだ出版されていないのですが、抜粋が1825年の「ゲッチンゲン年報」巻1に掲載されました。そこに予告されている諸定理は私の方法によりきわめて容易に証明されますし、そのうえ一般化することもできます。それに、これは冪剰余に関して確立することのできるすべての事柄についても同様であろうと、私には思われます。あの偉大な幾何学者が私に手紙で知らせてくれたのですが、彼は同じテーマをゲッチンゲン協会に提出することになっている3篇の論文で追究するのだそうです。きわめて重要なさまざまなテーマについての広大な研究を公表する時間がないと、嘆いています。〉
 

 ガウスが「四次剰余の理論 第一論文」の抜粋をゲッチンゲン協会で報告したのは1825年4月5日のことでした。これはこれで公表されましたから、ヤコビはそれを読み、ガウスが表明した諸定理の証明を独自に考えたのでしょう。完全な形の論文が出版されたのは1828年になってからで、ゲッチンゲン王立協会新報告集6(1828年)に掲載されました。
 ヤコビはガウスの数論に非常に早い時期から関心を示し、高次冪剰余の理論を独自に構築するかのような構えさえ示しました。アーベルにはこの方面の関心は見られません。

リーマンを語る 200. ルジャンドルとヤコビの往復書簡より その6

 前回引いたヤコビの手紙の中に「超越関数F(χ,φ)の評価」という言葉がありましたが、「評価」というのは「おおよその数値」すなわち「近似値の数値計算」というほどのことを意味しています。ヤコビが発見した変換の定理を使うと楕円関数(楕円積分のことです)の近似値の算出を簡便に遂行することができて、楕円関数の数値表の作成に役立つというのがヤコビの言葉の主旨で、引き続き簡単な数値計算例を提示しています。
 楕円関数の数値表は応用のためには非常に重要で、三角関数表と同じ役割を果たすことが期待されていましたから、ルジャンドルは精密な数値表を掲げています。ヤコビもまたその領域に一石を投じようとしたのでした。
 ヤコビの数値例の紹介は省略することにして先に進むと、ガウスへの言及が目に留まります。

〈これらの研究が生まれたのはごく最近のことです。ところが、これらは同じテーマに関するドイツでの唯一の研究企画というわけではないのです。ガウス氏は上記の研究を知って私に伝えてきたのですが、ガウス氏は1808年にすでに3等分、5等分、それに7等分の場合を詳細に叙述して、しかも同時にそれらの等分に関連する新しいモジュールの「はしご」を発見したというのです。このニュースは非常に興味が深いと私には思われます。〉

〈少し前から、私は再び数の理論に関する多少の研究を行ってきましたが、あなたの名高い相互法則により、この幾何学者たちに開かれているテーマのあの美しい部分に関する非常に奇妙な諸結果へと導かれていきました。実際、ガウス氏の『アリトメチカ研究』の第7章においてガウス氏によって提示された円の分割の新理論から出発することにより、私はひとつの方法を発見したのですが、それは、3次剰余、4次剰余、それにもっと高い次数の冪剰余の理論に関する基本定理へと私を導いてくれる方法です。〉

 ここのところに註釈が附されていて、以下の叙述ではガウスが『アリトメチカ研究』で使用した記号と呼称を使うと宣言されています。

〈簡単なアイデアを与えるために、この新原理に基づく平方剰余に関する基本定理の証明をここに書き留めてみます。
 pは奇素数、xは方程式(x^p-1)/(x-1)=0の根、gは合同式b^(p-1)-1≡0の原始根とすると、
 x-x^g+x^(g^2)-x^(g^3)+・・・-x^(g^(p-2))=+√((-1)^((p-1)/2) p)
となります。同様に、一般に、
 x^q-x^(qg)+x^(qg^2)-x^(qg^3)+・・・-x^(qg^(p-2))
は、qが数pの平方剰余であるか否かに応じて、+√((-1)^((p-1)/2) p) に等しいか、あるいは-√((-1)^((p-1)/2) p)に等しくなります。ところが、数qもまた素数ですから、qの倍数を省いて書くと、

 x^q-x^(qg)+x^(qg^2)-x^(qg^3)+・・・-x^(qg^(p-2))
 =(x-x^g+x^(g^2)-x^(g^3)+・・・-x^(g^(p-2)))^q
=(-1)^((p-1)/2・(q-1)/2))・p ^((q-1)/2) √((-1)^((p-1)/2) p)

となります。
 それゆえ、qは、(-1)^((p-1)/2・(q-1)/2))・p ^((q-1)/2)をqで割るときに
+1が残るか、あるいは-1が残るのに応じて、pのRになるか、あるいはN.Rになります。これはまさしく相互法則です。あるいは、ガウス氏の語法では平方剰余に関する基本定理です。〉

 「pのR」とか「pのN.R」というのはガウスの用語法で、それぞれ「pの剰余」「pの非剰余」という意味の記号です。今は平方剰余の理論の話をしているのですから、「剰余」「非剰余」といえば「平方剰余」「平方非剰余」のことになります。

リーマンを語る 199. ルジャンドルとヤコビの往復書簡より その5

 定理Iではモジュールがχからλへと移行しましたが、「定理II」ではモジュールは再びλからχにもどります。

〈もうひとつの置換に対応する定理IIに移ります。この定理により、モジュールλからモジュールχに移ることができます。また、この定理は、前の定理につなげると、第一種楕円関数の乗法のために役立ちます。〉

〈定理II
λ^2+λ’^2=1とします。また、一般にψ^mは
   F(λ’,ψ^m) = (m/p) F^1(λ’)
となるような角として、
 tangθ’=tangψcosecψ’, tangθ’’’=tangψcosecψ’’’,
・・・, tangθ^(p-2)=tangψcosecψ^(p-2)
を作ります。最後に、θ=2(θ’-θ’’’+θ^V-・・・-+θ^(p-2)±ψ)
とします。このとき、
   F(χ,θ) = MF(λ,ψ)
となります。角θ’,θ’’’,・・・は角ψが見いだされるのと同じ四分の一円の中に取らなければなりません。〉

〈定理Iと定理IIをつなぎ合わせるとF(χ,θ)=pF(χ,φ)が与えられます。
 ここに提示された二定理からもたらされる非常に興味深い数々の解析的関係については、語らずに通り過ぎることにします。ここでは、超越関数F(χ,φ)の評価に役立つひとつの方法を言い添えるだけに留めます。その方法は、想像しうる限りもっとも簡便なものであると私は信じます。〉

 ここで「超越関数」という言葉の原語は単にtranscendantes(複数形)となっているだけで、「関数」という言葉が見られるわけではありません。transcendantesはもともと形容詞で「超越的な」という意味ですが、これが名詞として使用すると「何かしら超越的なもの」というほどの意味になりそうです。そこで「超越物」とでもすればよさそうですが、これでは訳語として熟しません。F(χ,φ)は積分であるのはまちがいなく、しかも楕円積分なのですが、楕円積分と呼ばずにわざわざ「超越的なもの」などと呼ぶのはなぜなのでしょうか。
 オイラーは関数の概念を数学に導入した一番はじめの人ですが、そのオイラーが生きていたのは依然として「変化量の世界」でした。オイラーの世界では積分もまた変化量ですが、積分の形で手に入る変化量はわりとひんぱんに超越的になります。楕円積分F(χ,φ)もまた超越的ですから、これを「超越的なもの」と呼んでも別段、不都合なわけではありません。
 オイラーの用語法によれば、ある変化量xに対し、xと定量を用いて組み立てられる解析的な式はxの関数です。xに依存して変化する変化量yもxの関数です。xに対応して、そのつど定まる値を取る変化量yがあれば、それもまたxの関数です。都合三種類の関数をオイラーは提示しました。それなら楕円積分を指して関数と呼ぶことにしても、あながちオイラーの流儀からはずれるわけではありません。これを実行したのは実はルジャンドルです。
 ヤコビの手紙の中に「第一種楕円関数の乗法」という言葉がありましたが、ここでの「楕円関数」はFonctions Elliptiques(複数形。単語の語頭を大文字にして強調しています)の訳語で、ここにははっきりと「関数」という言葉が見えています。ヤコビはルジャンドルの用語法を踏襲したのです。

リーマンを語る 198. ルジャンドルとヤコビの往復書簡より その4

 ヤコビが語ろうとしているのは二つの定理です。

〈こんなふうにして、私はこれらの二通りの置換の一般的な表示式を見つけることに成功したのですが、それらの置換を三角的形状のもとで提示したいと思います。それが一番簡便のように私には思われます。それらの表示式は、上述した代数的形状に容易に変換されます。後者の置換から話を始めることにしますが、これは次の定理を私に与えてくれます。〉

 「三角的形状」というのは変な言葉ですが、これは「la forme trigonométrique」というフランス語に仮に与えた訳語で、三角関数を用いた表示式というほどの意味合いの言葉です。
 第一の定理は次の通りです。

〈定理I
く角φ’をF(χ,φ’)=(1/p) F^1(χ)となるようにとります。そうして一般にφ^mはF(χ,φ^m)=(m/p)F^1(χ)となるような角とします。角ψを式

tang(45°-ψ/2)
=tang(φ’-φ)/2 tang(φ’’’+φ)/2 ・・・tang(φ^(p-2)±φ)/2
÷tang(φ’+φ)/2 tang(φ’’’-φ)/2 ・・・tang(φ^(p-2)-+φ)/2
×(tang45°-+φ/2)

を用いて探します。このようにすると、F(χ,φ)=(M/p) F(λ,ψ)となります。上下の符号は、pが4n+1という形であるか、あるいは4n-1という形であるのに応じて取ります。φが限界φ^mとφ^(m+1)の間に見つかるときはそのつど、角ψは限界(m/2)πと((m+1)/2)πの間に取らなければなりません。定量M,λの決定は、式
 M=p/2(cosecφ’-cosecφ’’’+・・・-+cosecφ^(p-2)±(1/2))
 λ=(2χM/p)(sinφ’-sinφ’’’+・・・-+sinφ^(p-2)±(1/2))
によって行われます。〉

 この「定理I」には脚註が附されていて、ルジャンドルの『積分計算』で使われている記号をそのまま使うと明記されています。F(χ,φ’)とかF^1(χ)などがルジャンドルの記号なのですが、これらの指すものは下記の通りです。

 F(k,θ)=∫dθ/√(1-k^2 sin^2θ)
 F^1(χ)=F(k,π/2)

 楕円積分F(k,θ)はそれ自身が変化量ですが、F^1(χ)はその楕円積分の取る特定の値です。ルジャンドルはこれを「完全積分」と名づけています。

リーマンを語る 197. ルジャンドルとヤコビの往復書簡より その3

 ヤコビが発見した変換定理はどのようなことを意味しているのでしょうか。微分式のままで書いておけば、変換を実現する有理式そのものに意味がありそうに思われます。微分式というのはつまり微分方程式ですから、変換式というのはその積分を与えていることになりますから、これで微分方程式の解法の一角が明るみに出されたことになります。オイラーが一番はじめに考えたのもこのあたりのことでした。オイラーが探索した代数的積分の時点から考えるとたしかに長足の進歩を遂げたような印象があります。
 積分式の形で書くと、楕円積分が「p倍される」という事実に格別の興味を覚えます。変換の向きを逆向きにすると、楕円積分が「p等分」されることになり、変換式を与える有理式を0と等値すると、楕円積分の「p等分方程式」が得られます。それは代数方程式ですから、はたして代数的に解けるかどうかという関心が発生します。この視点からの考察はファニャノに始まりますが、ファニャノに影響を受けたオイラーはなぜか関心を寄せませんでした。この点でファニャノを継承したのはむしろガウスであろうと思いますが、ガウスはファニャノに言及したことはありません。いずれにしてもガウスが等分理論に関心を寄せていたのはまちがいなく、この関心はアーベルに引き継がれました。
 ルジャンドルへの手紙でヤコビが語りつつある理論を総称して「(楕円関数の)変換理論」と呼ぶことにすると、ルジャンドルは変換理論においてなにがしかの寄与をしたのでしょうし、ヤコビはそのルジャンドルの寄与の延長線上において新たな一歩を踏み出すことに成功したと考えられます。ではルジャンドルは何をしたのかということが気に掛かりますが、ヤコビによると、それは「第一種楕円関数の乗法に関する諸定理」であり、ルジャンドルの著作『積分計算演習』の巻1に記されているとのことです。
 そこで該当箇所を参照するといいのですが、どうも話が迂遠になってしまいますので、この作業は後にルジャンドルの著作を調べるときまで保留にしておきたいと思います。いずれにしてもルジャンドルが実行したのは第一種楕円積分の相互比較であり、その際、比較される楕円積分のモジュールはすべて同一です。これに対し、ヤコビの発見ではモジュールの異なる楕円積分が比較されています。モジュールもまた変換されているわけで、このあたりに新味があるということであろうと思われます。
 特に、ヤコビが提示した二つの変換のうち、第二の変換に着目すると、その変換によりモジュールλをもつ楕円積分がモジュールχをもつ楕円積分に移行し、しかもその際、乗法因子p/Mが伴っています。そこでヤコビはこんなふうに言葉を続けます。

〈ところで、数pにいろいろな値を与えることにより、注目すべき定理が見いだされます。すなわち、各々の与えられたモジュールから、無限に多くのモジュールの「はしご」が作られて、提示されたモジュールはその「はしご」に所属するモジュールに、代数的な置換、しかも有理的でさえある置換により変換されていきます。〉

 「モジュールの変換」という視点はたしかに斬新で、後の「モジュール方程式」の発見につながります。

リーマンを語る 196. ルジャンドルとヤコビの往復書簡より その2

 往復書簡はすべてフランス語で書かれています。第1書簡はヤコビからルジャンドルへの手紙です。

第1書簡
ヤコビからルジャンドルへ
1827年8月5日
プロイセンのケーニヒスベルクからパリへ

〈ひとりの若い数学者が、楕円関数の理論においてなされたいくつかの発見を、あえてあなたのもとに提出いたします。その若い数学者はあなたのすばらしい諸著作を捲まず撓まず研究することにより、楕円関数の理論へと導かれたのです。解析学のこの輝かしい領域が到達した高い完成度は、ひとえにあなたに負っているのです。あるひとりのかくも偉大な師匠の足跡をたどることによってはじめて、幾何学者たちはこの領域をこれまで取り囲んでいた垣根を越えて、首尾よく押し進めていくことができるようになるのです。ですから、あなたにこそ、正当な讃美と感謝の捧げものとして、これから申し上げる事柄を献上しなければならないのです。〉

 ここまでは儀礼的な挨拶ですが、この手紙が書かれた時点でヤコビが23歳だったのに対し、ルジャンドルは74歳で、堂々たる大家でした。200年後の今日の目にはヤコビは近代の数学史に足跡を刻んだ大数学者で、そのヤコビに比べるとルジャンドルはどうも精彩を欠いているように見えるのですが、同時代に身を置くとまた異なる光景が目に映じるのではないかと思います。アーベルにとってもヤコビにとってもルジャンドルはフランスの数理科学を代表する偉大な数学者であり、しかも現に二人ともルジャンドルの著作で学んだのでした。
 挨拶の次に数学上の発見の報告が続きます。

〈はじめに最近獲得したばかりの諸結果の主な契機を説明したいと思います。pは任意の奇数とします。『積分計算演習』の巻1で提示されている、第一種楕円関数の乗法に関する諸定理を追うことにより容易に気づくことですが、方程式
 dx/√(1-x^2)・1/√(1-χ^2 x^2) = pdz/√(1-z^2)・1/√(1-χ^2 z^2)
は、有理置換

x=z(A+A’z^2+A’’z^4+・・・+A^((p^2-1)/2) z^(p^2-1))/
(B+B’z^2+B’’z^4+・・・+B^((p^2-1)/2) z^(p^2-1))

を用いることにより、つねに成立させることができます。〉

〈このことに気づいてから、私は、この置換は他の二つの置換で置き換えることができることを発見しました。それらは次々と

x=y(a+a’y^2+a’’y^4+・・・+a^((p-1)/2) y^(p-1))/
(b+b’y^2+b’’b^4+・・・+b^((p-1)/2) y^(p-1))
y=z(α+α’z^2+α’’z^4+・・・+α^((p-1)/2) z^(p-1))/
(β+β’z^2+β’’z^4+・・・+β^((p-1)/2) z^(p-1))

という有理式を使う置換です。〉

〈第一番目の置換により、楕円関数は異なるモジュールをもつ別の楕円関数に変換されて、その結果、

 dx/√(1-x^2)・1/√(1-χ^2 x^2) = Mdy/√(1-y^2)・1/√(1-λ^2 y^2)
 dy/√(1-y^2)・1/√(1-λ^2 y^2) = pdz/M√(1-z^2)・1/√(1-χ^2 z^2)

となります。〉

 微分式の変換の形で書かれていますが、積分記号を書き添えれば積分の変換式になります。一番はじめに書き下された変換式に積分記号をつけると、

 ∫dx/√(1-x^2)・1/√(1-χ^2 x^2) = p ∫dz/√(1-z^2)・1/√(1-χ^2 z^2)

という式になります。この式の左右両辺に現われるのは第一種と言われる(ルジャンドルがそのように呼んだのですが)楕円積分です。χはモジュールと呼ばれる定数です。そうすると、同じモジュールをもつ第一種の楕円積分が有理式による変数変換によりp倍されたことになります。この状勢を指して「楕円関数は乗法をもつ」と言うのはよいネーミングです。ここまではルジャンドルの著作の復習ですが、ヤコビの発見により、「p倍する」という乗法が「M倍」と「p/M倍」という二つの変換の合成に区分けされました。その際、各々の段階においてモジュールが「χからλへ」「λからχへ」と移っています。モジュールに自由度が付与されたわけで、確かにおもしろい変換です。

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オイラー研究所の所長です

Author:オイラー研究所の所長です
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