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8月の研究状況

この一箇月は月のはじめに数学史京都会議があり,新書の校正の仕事もあり,月末にはニュートン研究会があるというふうで,まったく多事多端でした.移動にも時間がかかりました.今週は東京理科大学に会場を借りて関孝和を記念する和算の研究会が開催されていて,本日31日が最終日ですので,顔を出してきたいと思います.
今後の研究計画は大略下記の通りです.

10月の津田塾大学での数学史シンポジウムに備えて準備する.
ブログ「オイラーを語る」を基礎にして,2冊の書物を作る.れは実質的にほぼできています.
「ガウス数論論文集」を仕上げる.これはガウス全集,巻2に収録されているガウスの数論に関する諸論文を訳出し,解明する仕事です.D.A.の続きです.
「オイラー/ラグランジュ数論論文集」 全3巻程度の計画で翻訳と解明を仕上げたいです.
岡潔先生の数学研究の姿の再現.「資料に見る岡潔の数学」という主旨で,残されているすべての研究記録を基礎にしてまとめたいところです.
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ニュートン研究回の終了報告

早大のニュートン研究会はひとまず無事に終了しました.翻訳担当の林さん,高橋さんのほか,数名の参加者があり,翻訳稿を題材にして訳文を検討したのですが,ひとつの箇所にひっかかるとたちまち紛糾し,長い時間をかけて,ああでもない,こうでもないと議論が続きました.ニュートンは大量の計算例を提示しているのですが,どの例も興味が深いです.微積分の歴史をオイラー以前にさかのぼるとニュートンとライプニッツの作る,いわば「古層」に到達します.神秘的な世界ですが,今回の研究会のおかげでだいぶ身近に感じられるようになりました.
 数学の古典の翻訳の鍵をにぎるのは数学の理解です.数学の理解が不充分では必ず誤訳が生じますし,数学を正しく理解できれば,誤訳の恐れはまったくありません.数学が道案内の役割を果してくれて,文章の正確な解明へと連れていってくれるからです.これからしばらくニュートンの計算例を実際に計算してみたいです.オイラーの無限解析を下敷きにして取り組めば,理解できそうに思います.

(ガウス113)四次剰余の第二論文(14)ガウス整数域における四次剰余相互法則の第二補充法則

平方剰余相互法則の第二補充法則をガウス整数域において考えると,数2の素因子である1+iを取り上げて,「1+iはどのような法の平方剰余もしくは平方非剰余になるだろうか」という問題が現れます.法としては,その四つの随伴数のうちプライマリーであるものを取り上げることにしてさしつかえません.ガウスは帰納的考察により「きわめて美しい定理」を発見したと言っています.
 ガウスは計算の結果を述べているのですが,数1+iは法
-1+2i, +3-2i, -5-2i, -1-6i, +5+4i, +5-4i, -7, +7+2i, -5+6i, ...
の平方剰余であり,法
-1-2i, -3, +3+2i, +1+4i, +1-4i, -5+2i, -1+6i, +7-2i, -5-6i, -3+8i,
-3-8i, +5+8i, +5-8i, +9+4i, +9-4i, ...
の平方非剰余です.この一覧表を注意深く観察すると,前者の法a+biはすべてa+b≡+1(mod.8)となっていること,後者の法ではa+b≡-3(mod.8)となっていることに気づきます.この帰納的観察では法mはすべてプライマリーですが,mの代りに随伴数-mを取ると状勢は一変し,前者の法に対してはa+b≡-1(mod.8),後者の法に対してはa+b≡+3(mod.8)と変ります.今,一般にm=a+biは奇素数とすると,aとbの一方は奇数,他方は偶数です.そこでaは奇数,bは偶数とすると,簡単に確かめられるようにmと-mのどちらかはプライマリーになりますから,上記の帰納的観察を信頼する限り,1+iは,a+b≡±1もしくは≡±3(mod.8)であるのに応じて,m=a+biの平方剰余もしくは平方非剰余であると言えることになります.これが,ガウス整数域における平方剰余相互法則の第二補充法則のひとつの姿です.

(ガウス112)四次剰余の第二論文(13) ガウス整数域における平方剰余相互法則の第一補充法則

ガウス整数域において四次剰余相互法則の確立をめざすのが第二論文のテーマですが,四次剰余の理論に移る前に平方剰余の理論を語ろうとするのは,四次剰余の理論のためのいわば瀬踏みにほかなりません.ガウスが言うには,「与えられた法に対し,不合同剰余の完全系を二つのクラス,すなわち平方剰余のクラスと平方非剰余のクラスに分けるのは容易である」というのですが,これは完全系に所属する数kのひとつひとつについてk^((p-1)/2)を計算し,≡1となるのか,あるいは≡-1となるのかを検証すればよいのですから実行可能なことで,ガウスの言葉の通りです.不合同剰余の完全系に所属しない他の数は,この完全系のいずれかの数と合同になるのですから,それらが所属するクラスもまた定められます.しかし,とガウスは続けて発言するのですが,「与えられた数がその平方剰余になる法を,その平方非剰余になる法と区別することを可能にしてくれる判定基準に関する問いは,はるかに困難である」.これもまたガウスの言う通りで,有理整数域において,合同式
 x^2≡-1 (mod.p)
が解をもつような素数p,すなわち与えられた数-1がその平方剰余になる法pを見つけるのは非常に困難です.答は「pが4n+1型であること」というのですが,これはガウスが17歳のときに発見した「あるすばらしいアリトメチカの真理」(D.A.の緒言),すなわち平方剰余相互法則の第一補充法則にほかなりません.
 ガウス整数域で同じタイプの問題を考えてみますと,まず実単数+1と-1 はいずれも平方数ですから(+1は+1の平方,-1はiの平方です),すべての法に対して平方剰余になります.複素単数iと-iについてはノルムが8n+1という形のすべての法の平方剰余になり,ノルムが8n+5という形のすべての法の平方非剰余になります.これはp=8n+1, p=8n+5と置いて(i)^((p-1)/2) と(-i)^((p-1)/2)を計算してみれば即座に明らかになることで,p=8n+1のときは両者の値は=1となり,p=8n+5のときは両者の値は=-1となります.
 これは法のノルムの形状を基準にして考えたのですが,今度は任意のガウス素数mを法として取ってみます.法としては,m自身でなくとも,その随伴数im, -m, -imのどれを法として採用してもさしつかえませんから,プライマリーであるものを取ることにしてみます.m=a+biと置き,aは奇数,bは偶数とします.すると,つねにa^2≡1(mod.8)となります.b^2の方は,bが偶数の2倍であるか,あるいは奇数の2倍であるのに応じて≡0もしくは≡4(mod.8)となります.したがって,mのノルムp=a^2+b^2は第一の場合には≡1(mod.8),後者の場合には≡5(mod.8)となりますから,+iと-1はそれぞれの場合に応じて法mの平方剰余もしくは平方非剰余になります.これが,ガウス整数域における平方剰余相互法則の第一補充法則です.

(ガウス111)四次剰余の第二論文(12)ガウス整数域における平方剰余の理論

原始根の概念が手に入ると,ガウス素数を法とする不合同剰余の完全系が簡明に表示されます.mはガウス素数,そのノルムをpとし,hはmの原始根とすると,p-1個のの数の作る系列
1, h, h^2, h^3, ..., h^(p-2)
は法mの不合同剰余の完全系を表します(ただし,oは除外されています).これを言い換えると,これらの数はどの二つも法mに関して不合同であり,しかもmで割り切れない任意のガウス整数kは,何かあるhの冪と法mに関して合同になります.そこでガウスは,kと合同なhの冪の冪指数を,hを底と見て,与えられた数のインデックスと呼んでいます.
 インデックスの概念が確定すると,ある与えられた数kが法mに関して平方剰余であるか,あるいは平方非剰余であるかの見極めが明瞭になります.以下,法mはつねにガウス奇素数とします. pとhは上記の通りとして,ある与えられたガウス整数kは,hを底と見るときのインデックスが偶数ならmの平方剰余になり,奇数なら平方非剰余になります.こんなところも有理整数域での平方剰余の理論と同様に話が進みます.
 原始根とは別に,平方剰余の理論との関連でもうひとつ気にかかるのは,フェルマの小定理です.この定理によれば,mで割り切れないガウス整数kに対し,合同式
 k^(p-1)-1≡(mod.m)
が成り立ちますが,左辺を因数分解すると,
 (k^((p-1)/2)-1)(k^((p-1)/2)+1)≡0 (mod.m)
という合同式が得られます.これより,k^((p-1)/2)≡1(mod.m)であるか,あるいはk^((p-1)/2)≡-1(mod.m)であるかのいずれかの合同式が成立することがわかります.前者の合同式が成立するとき,kはmの平方剰余であり,後者の合同式が成立するとき,kはmの平方非剰余になります.
 実際,hはmの原始根として,kのインデックスをμとすると,h^μ≡k(mod.m)となります.これより,k^((p-1)/2) ≡1(mod.m)なら,
 k^((p-1)/2)≡h^(μ(p-1)/2)≡1(h^0)(mod.m)
となりますから,μは必然的に偶数であり,kはmの平方剰余になります.また,k^((p-1)/2) ≡-1(mod.m)なら,
 k^((p-1)/2)≡h^(μ(p-1)/2)≡-1(mod.m)
となりますから,μは必然的に奇数であり,kはmの平方非剰余になります.

ニュートン研究会

8月28日と29日の両日、早稲田大学で足立恒雄先生が主催してニュートン研究会という研究会が開催されます。現在、ニュートンの論文のいくつかを邦訳して出版する企画が進行中で、翻訳担当は主として高橋秀裕さんと林知宏さんの二人です(他にも何人かの人が担当しています)。高橋さんはニュートン、林さんはライプニッツが専門ですが、協力してニュートンの翻訳を仕上げようという構えになり、鋭意取り組んでいます。そこで関心をもっていそうな人が集って、お二人の翻訳と解説を聴講し、自由に語り合おうというほどの集りです。昨年末に第一回目の研究会が行われました。今回は第二回目です。
 テキストは、ホワイトサイドが編集した
 『アイザック・ニュートンの数学論文集』、全8巻
 ケンブリッジ大学出版、1967-81年
です。前回に引き続き、巻2所収の論文
 「無限方程式による解析について」(高橋さん担当)
と、巻4所収の論文
 「曲線の幾何学」(林さん担当)
が取り上げられる予定です。テキストは対訳形式になっていて、本を開くと、左側のページにラテン語の原文、右側のページにその英訳が出ています。今回は思い付いたことを勝手に話すのではなく、訳文に即して所見を述べるようにしたいと思い、テキストのコピーを作り、ラテン語と英語の辞書を持参して参加するつもりです。

(ガウス110)四次剰余の第二論文(11)ガウス素数の原始根

これまでのところで,数域を拡大してガウス整数域に移っても,加減乗除の演算は有理数域における場合とまったく同様に進行することがわかりました.いくつかのガウス整数を加えても,引いても,乗じても,その結果として生じる数は依然としてガウス整数域の範囲に留まりました.割り算についてはやや複雑な状況が現れました.ガウス整数m=a+biの絶対最小剰余の個数を数えると,mのノルムp=a^2+b^2に等しい個数の剰余がみいだされるというのですが,この点を別にすると,割り算という演算それ自体は有理整数の場合に比べて変るところはありません.これで,ガウス整数域において合同式を考える準備が整いました.
 こんな当たり前のことをなぜわざわざ詳述するのか,かえって不審を感じるほどですが,整数の概念を複素数の世界に及ぼして,新たにガウス整数域を設定するなどということはガウスにしてもはじめての試みですし,加減乗除の基本演算ははたしてどうなるのか,一歩また一歩と慎重に歩を進めていくほかはなかったことと思います.ガウスがこのような一歩を歩んでくれたからこそ,今では当たり前になったのですが,今でもなお当たり前とは言えないこともあります.それは,ガウスはどうして数論を複素数の範囲に及ぼそうと考えるようになったのか,という根源的な問題です.事実関係を見る限り,そうしなければ高次の冪剰余相互法則が見つからなかったからなのではありますが,この点だけはそんな知的な理解を超越し,偉大な数学者に特有の神秘的な印象はいつまでもぬぐえません.数学という学問の魅力の根源でもあります.
 加減乗除の演算に続き,「フェルマの小定理」に相当する定理が提示され,証明されます.

定理
《mはガウス素数とし,そのノルムをpとする.mを法として採用し,kはmで割り切れない整数を表すとすると,合同式
k^(p-1)≡1 (mod.m)
が成立する.》

この定理の形を見ると,有理整数域におけるフェルマの小定理に非常によく似ていますが,類似性はこれのみに留まらず,次に挙げる明大もまた成立します.

定理
《mはガウス素数,kは法mで割り切れない整数とし,tはk^t≡1(mod.m)となるような(0を除いて)最小の冪指数とする.このとき,tはk^u≡1(mod.m)となる他のすべての冪指数uの約数である.》

特にuとしてp-1を取れば,tはつねにp-1の約数であることがわかります.tの大きさがどの程度になるのかは,与えられた数kに依存しますが,もしきっかりt=p-1となる数が存在するなら,そのような数kを指して「法mの原始根」と呼ぶのが相応しく,実際にガウスはそうしています.懸案の基礎的問題は,原始根の存在を証明することですが,これは有理整数の場合にも非常にむずかしく,ガウスは1801年に刊行されたD.A.の中ではじめて証明に成功しました.それから30年余がすぎて,今また「四次剰余の理論」の第二論文において,ガウス素数の原始根の存在証明に成功しました.

(ガウス109)四次剰余の第二論文(10)ガウス平面

ガウス整数のアリトメチカを考えるうえで,素因子分解とその一意性に続いて重要なのは割り算の可能性ですが,ガウス整数域における割り算は有理整数域における周知の割り算とまったく同様の仕方で遂行されます.有理整数の場合,aは任意の有理整数,bは正の有理整数としてaをbで割ると,
  a=nb+k
という形の式が得られます.ここで,nはこの割り算における「商」と呼ばれる有理整数,kは「剰余」と呼ばれる有理整数です.この等式の成立を考えるうえではbの正負は問題にならず,負でもさしつかえないのですが,便宜上,正としました.商nと剰余kは一意的に定められるわけではありませんが,kの大きさを0とb-1の間に指定するとただひとつの商と剰余が確定します.その場合の剰余kのことを「絶対最小剰余」と呼びますが,全部でb個の絶対最小剰余が存在することになります.絶対最小剰余が配置される範囲を0とb-1の間に指定するのは,必ずそうしなければならないと決まっているわけではなく,-b/2とb/2の間に指定されることもよくあります.bの正負を定めない場合には,bの代りにその絶対値を用いれば,上記と同じ記述が成立します.この割り算が基礎になってbを法とする合同の概念が確定し,有理整数の合同の理論が構築されるのでした.
 ガウス整数域の割り算もまったく同様に進行しますが,絶対最小剰余の個数を数えると,今度は法のノルムが現れます.その様子は次の定理にはっきりと表明されています.
定理
《与えられた複素法m=a+biのノルムをaa+bb=pとし,a, bは互いに素とすると,任意の複素整数は系列0, 1, 2, 3, ..., p-1のうちのあるひとつの剰余と合同であり,しかもひとつより多くの剰余と合同になることはない.》
系列0, 1, 2, 3, ..., p-1はいわば「絶対最小剰余の完全系」を作りますが,剰余を実数に限定しなければならない理由はなく,次のようにも言えます.
定理
《複素法m=a+biに関して,そのノルムをaa+bb=pと置く.a, bは「互いに素」ではないとし,最大公約数をλ(λは正とする)とする.このとき,任意の複素数は,xは数0, 1, 2, 3, ..., p/λ-1のひとつ,yは数0, 1, 2, 3, ..., λ-1のひとつとして,x+iyという形の剰余と合同になる.しかも,このような形のp個の剰余のすべてのうち,ただひとつの剰余と合同になる.》
 平面上に直行する二本の直線を引き,一方をx軸,もう一方をy軸と名づけると,いわゆるガウス平面が設定されて,複素数x+yiとガウス平面上の点(x, y)が対応します.複素数を視覚的に把握しようとするガウスの工夫ですが,ガウスはこのようなアイデアをオイラーに学んだのであろうと思います.オイラーは実変化量xを視覚化するために平面上に一本の直線を引き,その上の一点Aを任意に固定し,xの取る数値と,その数値に等しい長さの線分を始点Aから測定して切り取って対応させました.複素数x+yiには二つの変化量x, yが現れますから,オイラーのアイデアに基づいてこれを視覚化するには二本の直線(実軸と虚軸)が必要になります.オイラーの影響がガウスに強く及ぼされているのは明瞭ですが,ガウス自身はそんなことを明言しているわけではありません.
 上記の第二番目の定理によれば,ガウス平面上にひとつの長方形が描かれて,任意のガウス整数はmを法としてその長方形の中にただひとつの剰余をもつことになります.そこで,この長方形内に配置される全部でp個のガウス整数を,法mに関する絶対最小剰余と呼ぶのが相応しいと思います.この長方形は原点O=(0, 0), x軸上の点(p/λ-1, 0), y軸上の点(0, λ-1),それにもうひとつの点(p/λ-1, λ-1)を結んで描かれます.
 ガウス平面上に絶対最小剰余を配置する仕方はひと通りに限定されるわけではなく,上記の第一番目の定理が教えるように,実軸上にp個の数値に対応する点を0, 1, 2, 3, ..., p-1を配列してもよく,-p/2と p/2の間にはさまれるp個の数値を取り,それらに対応する点を採用することもできます.

(ガウス108)四次剰余の第二論文(9)素因子分解とその一意性

ガウス整数m=a+biは奇数とし,しかも混合数,すなわちbが0ではない場合,プライマリーと呼ばれるために満たされるべき条件は既述の通りです.たとえば,複素素数-1+2i, -1-2i, +3+2i, +3-2i, +1+4i, +1-4i, ... はどれもプライマリーです.bが0の場合,mは有理整数になり,しかも通常の意味で奇数です.有理整数を有理整数域で考える場合,aが正ならばa自身がプライマリーになり,aが負なら-aがプライマリーになるのでした.では,aをガウス整数域の中で観察するとき,プライマリーでありうるためにはaはどのような形でなければならないでしょうか.
 状勢は混合数の場合と同じで,新たな問題は生じません.すなわち,0を「偶数の2倍」と見て,奇の有理整数aがプライマリーであるための条件は,a-1が偶数の2倍であること,言い換えるとaの形状が4n+1型であることです.これは合同式
  a≡1(mod.2+2i)
からも導かれます.実際,この合同式はa-1=(2+2i)(c+di)という形の等式と同等ですが,これより,a-1=2c-2d=2(c-d), 0=2c+2d=2(c+d)となります.よってd=-cとなり,aはa=1+4cという形になることがわかります.有理素数3, 7, 11, 19, ...を例に取ると,これらはこのままではどれもプライマリーではありませんが,負符合をつけて-3, -7, -11, -19, ... という数を作ると,今度はどれもプライマリーになります.こんなふうですので,同じ有理整数も有理整数域とガウス整数域のどちらに配置するのかによって,プライマリーの概念は異なります.
 簡単な注意事項をもう少し附言すると,m=a+biはプライマリーとすると,その共役数m*=a-biもまたプライマリーです.半偶数と偶数に対してはプライマリーの概念は考えません.すなわち,1+iの四つの随伴素数1+i, 1-i, -1+i, -1-i のうち,どれかひとつをプライマリーとして選定することはしません.ガウスが言うには,可能なことは可能でも,そんなことをしても何にもならないとのことです.相互法則の発見という大きな目標のためには意味をもたないということでしょう.
 さて,有理整数域では素因数分解の一意性が成立することはよく知られていますが(はじめて証明したのはガウスです),これによれば,有理整数mは
  m=±a^α・b^β・c^γ...
という形に表示されます.ここで,a, b, c, ...は「正の」有理素数,α, β, γ, ...は正の有理整数です.右辺の二重符合「±」は,mの正負に応じて「+」または「-」を採用します.ガウスはこの定理をガウス整数にも及ぼして,素因子分解の可能性と一意性はそのまま成立することを示しました.すなわち,任意のガウス整数Mは,
  M=i^μ・A^α・B^β・C^γ...
という形にただ一通りの仕方で表示されるとおいうのです.ここで,A, B, C, ... は相異なる複素素数ですが,さらにプライマリーでもあります.iの冪指数μは0, 1, 2, 3のいずれかを表します.素因子分解とその一意性はアリトメチカの基礎で,有理整数域とガウス整数域では成立しますが,もっと一般的な数域を考えると必ずしも成立しません.それはガウスの数論研究を継承したクンマーが直面した難問ですが,クンマーを「イデアル」の概念を発見することによりこの難局を乗り越えました.19世紀の整数論におけるもっとも劇的な情景です.

桂人さんとゴローさんへ

コメントを寄せていただいてありがとうございました。

桂人さんへ
京都の数学史会議はおもしろかったですね。先日、東京で慶應大学のドイツ文学者の坂口先生にお目にかかりました。坂口先生はトーマス・マンの研究家ですが、トーマス・マンに関心をもつようになったきっかけは北杜夫さんの作品『ドクトルマンボウ青春期』で、高校3年生のときに読んだそうです。北さんはトーマス・マンに打ち込んで、『ブッデンブローク家の人々』の向こうをはって『楡家の人々』を書きましたが、実はぼくも坂口先生に少し遅れて北さんの青春期を読み、トーマス・マンの名を知りました。そんな話を交わして盛り上がりました。

ゴローさんへ
このところ数学の話ばかりが続いて申し訳ありません。ガウスは数学の大先輩のルジャンドルを軽く見て、ルジャンドルによる相互法則の証明のまちがいを指摘して執拗に批判していますが、よくよく観察するとあちこちにルジャンドルの影響が見られます。ガウスは知らん顔をしていますが、だんだん様子がわかってきますとどうも感じが悪いです。ガウスは偉大な数学者ですが、いわゆる「食えない男」ですね。ルジャンドルにはガウスのような天才はありませんが、オイラーを尊敬し、篤実に祖述しました。その姿勢からおのずとにじみ出た創意も確かにあり、相互法則の「ルジャンドルの記号」の提案などは一例です。ガウスは公にされた著作や論文ではこの記号を使っていませんが、遺稿には出ています。そのうち紹介する機会があると思います。

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プロフィール

オイラー研究所の所長です

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オイラーを研究して40年。所員募集中。
オイラー生誕300年を期して熱くオイラーを語り合いましょう。
西暦2011年は岡潔先生の生誕110年の節目の年です。
西暦2013年は岡潔先生のエッセイ集『春宵十話』が刊行されてから50年目の節目です。

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