夜久先生と小田村先生に相次いでお目にかかることができて、岡先生と国文研との関係について理解できるようになったことは、この年の10月のフィールドワークの大きな収穫でした。月が変って11月になり、1日、文京区の特別擁護老人ホーム「白山の郷」に岡田泰子さんをお訪ねしました。明治37年9月のお生まれの泰子さんは,この時点で満93歳という御高齢でしたが、お元気でした。日曜日にはホームの人に付き添ってもらい、教会に通うのを楽しみにしているということでした。
フィールドワークの日々の回想を書き始めて今回で142回になりますが、ここまでたどってもまだようやく二年目の終りかけにすぎません。この連載のねらいは岡先生の評伝の続篇を書くことですが、その続篇の中味は岡先生の晩年の交友録になる予定で、小林秀雄、保田與重郎、坂本繁二郎、石井勲という諸先生とのおつきあいの様相を再現したいという考えです。
フィールドワークは8年ほど続きましたから、前途はなお遼遠ですが、それとは別に、一冊の数学史を書きたいという考えがあります。だいぶ前から心に描いていた企画であり、執筆のきっかけを探っていたのですが、こんなふうに書きたいというおおよその構想が念頭にありますので、少しずつ書き留めておきたいと考え始めました。それで、フィールドワークの回想録はこのあたりでひと休みして、しばらく新しい数学史の叙述を試みたいと思います。高木貞治先生の「近世数学史談」に範を求めて、「平成の近世数学史談」をめざしたいと念願しています。