ファニャノの主定理を楕円の弧長積分に適用すると、「差を幾何学的に指定することのできる二つの弧」を自由に描くことができるようになります。前にそうしたようにx-y平面上に楕円
(x^2)/(a^2)+y^2/(b^2)=1
を描き、この楕円上に4個の点
A=(0, b), G=(a, 0), H=(0,-b), I=(-a, 0)
を指定します。楕円の線素を表示する微分式
ds=dx √(h x^2+2 a^3)/√(2 a^3-2 a x^2)
を主定理の微分式Xと比較すると、Xにおいて
l=2 a^3, f=-2a , g=2 a^3
置くと、楕円の線素が得られることがわかります。このような状勢のもとで主定理の適用を考えます。
楕円上に任意の点Bを指定し、その横座標をxで表します。このxを用いて式
z=a√(2 a^3-2 a x^2)/√(h x^2+2 a^3)
を作り、この値zを横座標にもつ点Fを楕円上に取ると、主定理により、等式
弧AB+弧AF=-h x z/(2 a^3)+K
が得られます。ここでKは積分定数と呼ばれる定量ですが、x=0のとき、一次式h x z/(2 a^3)と弧ABはどちらも0になることに留意すればKの値が判明します。実際、その場合、弧AFは楕円の第一象限内の全弧AG(楕円の全長と比較すると、弧AGの長さは四分の一になります)に等しくなりますから、Kはその全弧AGに等しくなります。よって、弧AF+弧GF=K=全弧AG。そこで上記の一番最後の等式の諸項の配置を変えて、弧AF-Kすなわち弧AF-弧AGに代って弧GFを用いると、等式
弧AB-弧GF=-h x z/(2 a^2)
が手に入ります。右辺はxとzを用いて組み立てられた簡単な表示式ですから、xの数値が指定されたとき、zの値とともに、右辺の式-h x z/(2 a^2)の値もまた即座に算出可能です。これで、「差の計算」が可能な二つの弧を楕円上に指定することができました。
楕円の弧の測定ということでしたら、線素dsを寄せ集めて、積分
∫ds=∫dx √(h x^2+2 a^3)/√(2 a^3-2 a x^2)
を計算すればよいわけですが、この積分は楕円積分と呼ばれるむずかしい積分で、一見すると簡単そうに見えるものの、多項式や三角関数や指数関数、対数関数のような既知の関数を用いてその値を表示することはできません。オイラーの論文[E252]の標題に「求長不能曲線」という言葉が出ていますが、この意味において楕円の弧は求長不能です。双曲線とレムニスケートの弧長積分もまた楕円積分であり、やはり求長不能なのですから、曲線の弧長測定という簡明な問題は思いのほか複雑な事情を打に秘めていることがわかります。ファニャノはこのような状勢を眼前にして、求長が可能な「二つの弧の差」の算出をめざすという形に問題を設定し、ひとつの解答が提示された次第です。
ファニャノの主定理は双曲線とレムニスケートに対しても適用可能ですから、双曲線とレムニスケートについても、楕円の場合のように、「差の算出が可能な二つの弧」を指定することができます。これがファニャノの第一の発見です。