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新刊紹介

 新刊紹介
 『新版』 谷山豊全集
3回目の全集。新資料の発見を受けて新版が刊行されました。
2018年は谷山さんの没後60年の節目です。

     

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岡潔先生の第1論文

  岡潔先生の連作「多変数解析関数について」
  第1論文「有理関数に関して凸状の領域」の第1頁
  昭和11年(1936年)

        岡潔第1論文第1頁

書泉グランデ/トークイベントのお知らせ

平成30年(2018年)10月23日(火)
本日、午後7時から神保町と書泉グランデにおいてトークイベントが開催されます。
テーマ:オイラーの微分方程式とは

       

書泉グランデ/トークイベントのお知らせ

  『オイラーの難問に学ぶ微分方程式』
  発売されました。
  
●10月23日(火)、午後7時から神田神保町の書泉グランデでトークイベントがあります。
  
         41F30BoPaaL__SX353_BO1,204,203,200_

新刊案内(カバーデザイン決定)


    新刊案内
    『オイラーの難問に学ぶ微分方程式』
    共立出版
    9月末、刊行
    カバーデザインが決まりました。


               41F30BoPaaL__SX353_BO1,204,203,200_


近刊案内

● 近刊案内
『オイラーの難問に学ぶ微分方程式』
共立出版
平成30年(2018年)9月末日

序論 微分方程式とは何か
微積分の泉
積分計算
微分方程式とその解
微分方程式の分類
階数1の常微分方程式
偏微分方程式
解法の工夫の数々
積分計算におけるパラドックス
原石の宝庫


第I部 常微分方程式

第1章 変数変換の工夫と同次形の微分方程式
問題1.1(変数変換)dy + y dx = dx + x dx
問題1.2(リッカチの微分方程式.m = -2の場合)dz + z2 dx = (a dx/x2)
問題1.3(同次形の微分方程式)x dx + y dy = my dx
問題1.4(同次形の微分方程式)x dx + y dy = x dy - y dx
問題1.5(同次形の微分方程式)x dy - y dx = √(x2 + y2) dx
問題1.6(変数変換により同次形に変形される微分方程式)(α + βx + γy) dx = (δ + εx + ζy) dy
問題1.7(dy + Py dx = Q dx という形の微分方程式)dy + y dx = xn dx
問題1.8(dy + Py dx = Q dx という形の微分方程式)(1 - x2) dy + xy dx = a dx
問題1.9(dy + Py dx = Q dx という形の微分方程式)dy + (ny dx)/(√(1 + x2)) = a dx
問題1.10(変数変換の工夫)(y - x) dy = (n(1 + y2) √(1 + y2) dx)/(√(1 + x2))

第2章 リッカチの微分方程式
オイラーの2論文
問題2.1(リッカチの微分方程式)dy + y2 dx = axm dx

第3章 全微分方程式(2変数の場合)
全微分方程式の視点から
問題3.1 (αx + βy + γ) dx + (βx + δy + ε) dy = 0
問題3.2 dy/y = (x dy - y dx)/(y √(x2 + y2))
問題3.1と問題3.2の解法を顧みて
問題3.3 (a2 + 2xy + x2) dx + (x2 + y2 - a2) dy = 0
問題3.4(乗法子の探索)αy dx + βx dy = 0
問題3.5(乗法子の探索)(xy)/(x2 + y2) dx - dy = 0
問題3.6(問題1.6再論.乗法子の探索)(αx + βy + γ) dx + (δx + εy + ζ) dy = 0
問題3.7(問題1.10再論.乗法子の探索)(n(1 + y2) √(1 + y2) dx)/(√1 + x2) + (x - y) dy = 0
問題3.8(リッカチの微分方程式.m = -4の場合.再論.乗法子の探索)dy + y2 dx - (a dx)/(x4) = 0

第4章 非常に複雑な微分方程式
微分と微分の比を新たな変数と見る
問題4.1 x3 dx3 + dy3 = ax dx2dy
問題4.2 y dx - x√(dx2 + dy2) = 0
問題4.3 y dx - x dy = nx√(dx2 + dy2)
問題4.4 x dy3 + y dx3 = √(xy(dx2 + dy2)) dydx
問題4.5 s2 = 2xy (s = ∫√(dx2 + dy2))
問題4.6 s = αx + βy (s = ∫√(dx2 + dy2))
問題4.7 s2 = x2 + y2 (s = ∫√(dx2 + dy2))
問題4.8 y dx - x dy = a√(dx2 + dy2)
問題4.9 y dx - x dy = a 3√(dx3 + dy3)
問題4.10 (y - (x dy)/(dx))(y - (x dy)/(dx) + (2a dy)/(dx)) = c2
問題4.11 y dx - x dy + b dy = √(a2 ds2 - b2 dx2)
問題4.12 (y dx - x dy)(y dx - x dy + 2b dy) = c2 ds2
問題4.13 y dx - x dy = (a(dx2 + dy2))/(dx)

第5章 微分方程式の特異解
特異解(一般解に含まれない解)を語る.―オイラーの論文[E236]より
問題5.1 √(x2 + y2 - a2) dy = x dx + y dy
問題4.8再考
問題4.10再考
問題5.2(リッカチの微分方程式の特異解)dy + y2 dx - (a dx)/(x4) = 0
問題5.3 dy = √(y) dx
問題5.4 ay dy - ax dx = √(y2 - x2) dx

第6章 階数2の微分方程式
二つの変化量の間の2階微分方程式
問題6.1 a d2y = dxdy
問題6.2 ((dx2 + dy2) √(dx2 + dy2))/(-dxd2y) = a
問題6.3 (dsdy)/(d2x) = (a dx)/(dy)
問題6.4 d2y = αxn dx2
問題6.5 a2 d2y = y dx2
問題6.6 a2 d2y + y dx2 = 0
問題6.7 √(ay) d2y = dx2
問題6.8 d2y(y dy + a dx) = (dx2 + dy2) dy
問題6.9 (dsdy)/(d2x) = a arctan (dy)/(dx)


第II部 偏微分方程式

第1章 全微分方程式(3変数の場合)
全微分方程式
全微分方程式の可解条件
問題1.1(解をもたない微分方程式)z dx + x dy + y dz = 0
問題1.2 2(y + z) dx + (x + 3y + 2z) dy + (x + y) dz = 0
問題1.3 (y + z) dx + (x + z) dy + (x + y) dz = 0
問題1.4 (y2 + yz + z2) dx + (z2 + xz + x2) dy + (x2 + xy + y2) dz = 0

第2章 2変数関数の探求
問題2.1 (∂2z)/(∂x2) = (xy)/(a)
問題2.2 (∂2z)/(∂x2) = ((2nx)/(x2 + y2))・((∂z)/(∂x)) + (x)/(ay)
問題2.3 (∂2z)/(∂x∂y) = ((y)/(x2 + y2))・((∂z)/(∂x)) + (a)/(x2 + y2)
問題2.4 ((∂z)/(∂x))・((∂z)/(∂y)) = 1
問題2.5 ((∂z)/(∂x))2 + ((∂z)/(∂y))2 = 1
問題2.6 ((∂z)/(∂x))3 + x3 = 3((∂z)/(∂x))・((∂z)/(∂y))・x
問題2.7 (∂z)/(∂y) = (((x)/(y))・((∂z)/(∂x))) + ((y)/(x))
問題2.8(弦の振動方程式)(∂2z)/(∂y2) = a2・((∂2z)/(∂x2))(a は定量)

日々の記録24

・岡潔先生の第1論文の印象(24)
・ハルトークスの集合とレビの問題
序文の第2節を紹介します。欄外に、「次に研究対象の具体化」という言葉が記されています。

《上に挙げた三種類の集合はいづれもある共通な性質をもつて居る。どんな性質であるかは本論に於てくわしくのべます。空間(x, y)に於けるかかる性質をもつ点の集合をハルトークスの集合と名づけませう。
 さて再び上のハルトークス氏、E.E.レビ、及びジュリア氏の研究を見るに之等は二つの部分に分つて・・・事が出来る。1つは夫々の研究の対象がハルトークスの集合である事、今1つはハルトークスの集合が如何なる性質をもつかと云ふ事である。か様にきつぱりと分たれた二つの部分に入らないものがあるとすれば、夫は夫々の研究の対象がハルトークスの集合のもつ以外の性質をもたないだらうかと云うふ事である。ブルメンタール、ベンケ等の・・・やつた研究は主として此の最后の方向についてであつて、か様な見方を以てすれば結果はネガチブである。
 夫故、私はハルトークスの集合なるものを抽象的に(すなわち、母体とは独立に)定義して之を以て研究の対象にしようとふ。
 尚、ジュリア氏は前にあげた論文に於て固有面の族の極限点の集合が矢張りハルトークスの集合である事を云つて居る。尚、私も他の種類のハルトークスの集合を添加する事が出来る。益々以て抽象的に定義しなければいけないと考へさせられる。》

 「ハルトークスの集合のもつ以外の性質」というものが存在するなら、それはハルトークスの集合の固有の属性ではないから、個々の場合の特殊な状況に沿って究明が行われることになります。そのような性質の事例として、「ブルメンタール、ベンケ等の・・・やつた研究」が挙げられて、しかも「結果はネガチブである」と指摘されました。ブルメンタールやベンケの研究ということで想起されるのは「レビの問題」「自然境界」「正則領域」「有理型領域」などという一系の言葉です。
多変数解析関数の特異点は岡先生のいうハルトークスの集合を作りますが、特異点の作るハルトークスの集合は同時に解析関数の存在領域の自然境界を形成しています。そこで解析関数の存在領域のもつ特異な形状を追求するという課題が出現し、現にレビは具体的な一歩を踏み出していて、その延長線上に出現したのが「レビの問題」でした。このような問題は確かに「ハルトークスの集合のもつ以外の性質」を帯びているように思います。
 ハルトークスの集合に関する岡先生の思索には、レビの問題にもジュリアの問題にも関心が寄せられている様子はうかがわれませんが、その岡先生は同時に、「ハルトークスの集合なるものを抽象的に(すなわち、母体とは独立に)定義して之を以て研究の対象に」するという方針を堅持して、ハルトークスの集合の例が増えていくほどに「益々以て抽象的に定義しなければいけないと考へさせられる」というのです。ここかしこに出現するハルトークスの集合を統一的に観察する視点を確保しようとしたのでしょう。1932年の時点の岡先生の目は、レビの問題やハルトークスの逆問題の探求とは正反対の方向に向けられていたのでした。

日々の記録20

・岡潔先生の第1論文の印象(20)
・学位論文の概要
学位論文のフランス語の草稿の第2群には、章題の書かれた3枚の表紙がついています。そのまま再現すると次のとおりです(訳文を添えました)。

(1枚目の表紙)
Partie Ⅱ
Chapitre Ⅳ
Limites des familles d’ensembles (H)
(「第2部 第4章 集合(H)の族の極限」)

(2枚目の表紙)
Chapitre Ⅴ
Premiers généralisations d’un théorème de M.Hartogs」
(「第5章 ハルトークス氏の一定理の第一の一般化」)

(3枚目の表紙)
Partie Ⅱ
Chapitre Ⅵ
Décompositions des ensembles (H)en surfaces caractéristiques
(「第2部 第6章 集合(H)の固有面への分解」)

通し番号が記入されています。
第4章は69~92頁。第5章は93~121頁。第6章は122頁から141頁までですが、第141頁に書かれているのは1行のみです。さらに6枚続き、141頁から146頁までの通し番号が付いていますが、番号を示す数字にバツ印がつけられています。それらも加えると、第6章は26枚になります。第2群は総計79枚です。
学位論文のフランス語の草稿の第3群はごくわずかで、「研究」と書かれた表紙1枚と、36頁から47頁まで通し番号の記入された12枚の本文のみです。第36頁には、本文に先立って、

Ⅱ Ensembles de la classe (H)
(第2章 クラス(H)の集合」)

という見出しが記入されています。
 こうして三つの文書を概観すると、岡先生が企画した学位論文の全容がほのかに浮かび上がってくるように思い、感慨を覚えます。表紙は別にして、本文の総数は202枚に及びますし、第2群の頁数は、終わりがけのあたりは頁番号にバツ印がつけられているとはいえ147頁に達しています。岡先生が「百五十ページほどの論文」と振り返るのはこのあたりに根拠があるのかもしれません。
 第1群の冒頭の「一般的展望」の末尾に「概要(Résumé)」が配置されています。学位論文のあらましを把握するうえで参考になると思いますので、訳出して再現してみます。

概要
第1章 1個の複素変数の多価解析関数の正規族
1. クザン氏の方法による基本原理
2. 解析的収束
第2章 諸準備
1. 劣調和関数に関する予備的研究
2. 容量が0の集合と容量が0ではない集合に関する諸概念
第3章 集合(H)の諸性質
 1. 一般的な諸性質
 2. ハルトークス氏の一定理の第一の一般化
 3. 可算無限多価の場合への移行
第4章 切断h(x)の系列
 1. 予備的研究
 2. スティルチェス氏の一定理の一般的形状

 ここには「クザン氏の方法」や「ハルトークス氏の一定理」の姿もありますし、岡先生はこの時点ですでにクザンやハルトークスの諸論文をよく承知していたことがわかります。ジュリアの論文を通じて認識を深めていった様子がうかがわれます。それと、学位論文草稿の第1群の本文を見ると、1932年のカルタンとトゥルレンの論文にも言及がなされていて、「ジュリアの問題」が解決されたことも知っていました。
 ハルトークスの集合の外側に目を転じれば、そこには解析関数の存在領域が広がっていて、ハルトークスの逆問題の造形へと続く道が見えてくるのですが、この時期の岡先生はハルトークスの集合の側に留まっていました。多変数関数論の中心的な問題はそれではないという自覚が生れ、書きかけの学位論文を放棄するまでになったのはよほど重大な出来事でした。

日々の記録18

・岡潔先生の第1論文の印象(18)
・ハルトークスの一定理の一般化
「ノート」の第1頁の脚註に、「詳細な叙述は近々公表されるであろう」と記されています。「ノート」には全部で5個の定理が書かれていますが、証明はありません。脚註の文言によると、「ノート」はいわば速報のような扱いで、これに続いて詳細を叙述したまとまりのある論文の公表が予定されていた様子が伝わってきます。「ノート」が広島文理大学の紀要に受理されたのは1934年1月20日。固有面の正規族の研究が始まったのは1931年の春3月ころですから、「ノート」の執筆にいたるまでにおおよそ3年の歳月が流れています。
 1931年6月ころの岡先生はすでにサン・ジェルマン・アン・レを離れてパリにもどっていましたが、6月末、親友の中谷治宇二郎さんが体調をくずし、7月に入ってレントゲン検査を受けたところ肋膜炎が発見されて転地を指示されるという事態になりました。結核だったのですが、医師の指示に従い、中谷さんはレマン湖のほとりのスイスの古都ローザンヌのサナトリウム(シルバナ・クリニック)で療養生活に入ることになりました。サナトリウムに入ったのは7月20日です。療養費は岡先生が負担して、岡先生とみちさんは生活を切り詰めてパリ6区ピエール・ニコル通りの小さなアパートに移りました。
 8月に入り、15日か16日ころと推定されますが、岡先生とみちさんは中谷治宇二郎の依頼に応じ、パリを離れてローザンヌに向いました。パリの大使館でスイス行の手続きをしたのは8月14日。スイス入国は8月17日。17日か、または翌18日にオートサヴォアのレマン湖畔の温泉町トノン・レ・バン(仏領)で貸し別荘を借りました。サナトリウムの療養費が高額のため、貸別荘に移って3人で共同生活をするという考えになったのでした。
 8月19日、岡先生は中谷治宇二郎とふたりでトノンからローザンヌに向い、シルバナ・クリニックの医師に、ここを引き払うことを告げました。ちょうどこの日、療養所の一行のレマン湖めぐりの遠足があり、ふたりで参加することになったのですが、そのとき数学的発見を体験しました。次に引くのは後年のエッセイ『春宵十話』に見られる回想です。

《もう一つはジュネーブへ日帰りで行こうとして湖の対岸から船に乗った時で、乗ったらすぐわかってしまった。自然の風景に恍惚(こうこつ)とした時などに意識に切れ目ができて、その間から成熟を待っていたものが顔を出すらしい。
『春宵十話』第7話「宗教と数学」より》

 このときの発見は「ノート」の第3章の章題にいう「ハルトークスの一定理の一般化」を指しています。岡先生のいう「ハルトークスの一定理」はハルトークスの論文「多変数解析関数の特異点で作られる形成体について」(1909年。『数学輯報』第32巻)に出ています。この論文には二つの定理が提示されています。ひとつは一般に多価関数を対象にして表明された連続性定理ですが、岡先生が一般化をめざしたのはもうひとつの定理で、解析関数の特異点の集まりは、ある場合にはある解析関数により表示されることが主張されています。該当箇所をそのまま訳出すると次のようになります。

《x=0, y=0は、あるxとyの解析関数の、領域 |x| <ρ, |y| <ρ’におけるある1価分枝f(x, y)の特異点としよう。条件 |ξ| <ρを満たす各々の値ξに対して、f(x, y)のひとつ、しかもただひとつの特異点(ξ,η)=(ξ, φ(ξ))が存在するとして、そのy座標η=φ(ξ)の絶対値はρ’以下であるとしよう。そうしてさらに、η=φ(ξ)は|ξ| <ρにおいてξとともに連続的に変化する値をもつとしよう。このとき、η=φ(ξ)は必然的にξ=0において正則なξの解析関数を表す。》(『数学輯報』第32巻、62頁)

 この定理では、平面x=ξによる領域|x| <ρ, |y| <ρ’の切り口の上に、解析関数の特異点がただひとつだけ出現する場合が取り上げられています。『数学輯報』第32巻の70-71頁にこの定理を改訂した定理が出ていますが、そこでは「分枝f(x, y)の1価性」、各々の値ξに対応する特異点が「ただひとつであること」、および「関数φ(ξ)の連続性」という三つの仮定が取り払われています。また、72頁の定理では、変数の個数に課された2個という限定が除去されて任意になっています。76頁と77頁の定理を見ると、各々の切り口の上につねに同一個数の特異点が現れる場合が考察されています。そのような場合には関数φ(ξ)は多価関数になりますが、それは代数型であるというのです(76頁の定理は2変数の場合。77頁の定理は変数の個数が任意の場合)。
 岡先生はこれだけのことがらを承知して、そのうえで各々の切り口の上に一般に有限個の特異点が現れる場合(定理5)、加算無限個の特異点が現れる場合(定理6)へと考察を進めました。


日々の記録15

・岡潔先生の第1論文の印象(15)
・サン・ジェルマン・アン・レにて
岡先生が「ノート」の第1章の二つの定理に到達したのはまだサン・ジェルマン・アン・レに逗留中の1931年の春、3月から5月あたりにかけてのころと思われます。岡先生の後年のエッセイ『春宵十話』の第7話「宗教と数学」を見ると、

《フランスへ行ってからも二度ほど発見をやっている。一度はセーヌ川に沿ったパリ郊外の高台を散歩している時で、森を抜けて見おろしているうちに考えが一つの方向に動き出して発見をした。》

と回想されています。「春の回想」にも、

《森を散歩してイデーを得て帰り、部屋でそれを慥めて正確であることを知ったとき、小踊りしてよろこんだ記憶があります。》

と書かれていますし、発見を喜ぶ岡先生の心情が生き生きと伝わってきます。有理型関数の正規族の研究のときは「雷霆の御叱責」を受けてしまいましたが、今度の発見はジュリア先生の目にもよき研究と映じたようで、ほめられました。「セーヌ川に沿ったパリ郊外の高台」というのがサン・ジェルマン・アン・レのことで、パリやセーヌ川もここからひと目で見わたすことができましたし、森もありました。
 関連することをもうひとつ。昭和26年11月29日の岡先生の日記に、

《「床中で。St.Germann-en-raye[サン・ジェルマン・アン・レ]での研究は2変数についてしたものであるが、あれをn変数にすると、色々面白いことがあるようである。》

と書かれています。この日記が書かれた昭和26年から11年後の昭和37年になって、岡先生は連作「多変数解析関数について」の第10番目の論文
「多変数解析関数について Ⅹ 擬凸状領域を創り出すひとつの新しい方法」
を書きました。末尾に1962年9月10日という日付が記入されています。
 サン・ジェルマン・アン・レでの研究というのは「ノート」の定理1と定理2のことで、定理1では関数族(F)が正規であるための条件が、(F)を形作る固有面の面積に関する言葉で述べられています。定理2の「クラス(H)」は「ノート」の第2章のテーマで、どのようなものなのか、まだわかりませんが、大雑把に言うと、族(F)の正規性が破れる点の作る集合は解析関数の特異点の作る集合と同じ制限を受けるというのが定理2の主旨です。そのような特異点集合の外側には族(F)の正規性が保持される場が広がっていますが、定理1と合わせると、そこは族(F)の固有面の面積に関連して生成される領域です。このあたりの諸事情を詳しく観察して第10論文ができました。サン・ジェルマン・アン・レで数学的発見を体験したのは1931年。それから1961年まで、30年という歳月が流れています。

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オイラー研究所の所長です

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オイラー生誕300年を期して熱くオイラーを語り合いましょう。
西暦2011年は岡潔先生の生誕110年の節目の年です。
西暦2013年は岡潔先生のエッセイ集『春宵十話』が刊行されてから50年目の節目です。

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